第31話 メイドさんとゲーム
「ご主人様、勝負しましょう」
平日家に帰ってご飯を食べるなり叩きつけられたのはそんな挑戦状。
メイドさんにそんなことを言われてやらないわけがない。いっちょかましてやりますか、と腕まくりをしながらソファに腰掛ける。
「何で勝負する?」
「そうですね……やはりここは大乱闘なアレにしましょう」
あぁあの色んなゲームに登場するキャラが大乱闘して場外に吹っ飛ばすアレね。全キャラ解放してから手を付けてなかったけど、勝てるだろう。
俺は謎の自信を滾らせてコントローラーを握りしめた。
「ご主人様、自信のほどは?」
涼しい顔でメイドさんは口を開く。
「絶対勝つ」
「私こう見えて結構強いですよ」
「ほう……」
強者みたいな口調になってしまった。この謎の自信が消えないうちに早く始めないと。
よっと俺の隣に腰掛ける彼女。洋菓子ともフルーツとも違う甘い匂いが空気に弾けては消えた。
ま、惑わされんからな!
「ご主人様、賭けしましょう」
「賭け?」
「ええ、負けた方が勝った方のお願いを聞くとか」
「別にいいけど……」
でも特にメイドさんにお願いしたいこととかないんだよな。普段からやって欲しいことは全部してくれてるし。
「ではでは、始めましょっか!」
にこにこと機嫌の良さそうな彼女を横目にスティックを倒す。
やけに気合いの入ったアナウンスに懐かしさを覚えながらもステージを選んだ。
ゲームが始まって数秒、俺のキャラクターは場外に飛ばされていた。
「は?」
何が起こったか理解できないままゲームは続行、彼女に触れるや否やどのボタンを押しても操作が効かず、そのまま場外へたたき落とされゲームセット。
「え?なにこれ」
「私の勝ちですね」
こちらにぶいっとピースしながら満面の笑みを浮かべるメイドさん。
「いやいやいやおかしいでしょ!」
ずいっと身体をこちらに寄せて、彼女はコントローラーを振った。にやにやしながら耳元に口を寄せる。
「ご主人様、即死コンボくらいは警戒しとかないと……」
おいおいそんなの知ってるわけないだろ……というかこのメイド相当手練じゃねぇか。
それで何をお願いされるんだ俺は。
「わかったわかった、コンボは後で教えてもらうとして」
両手を上げて敗北を認める。
「あれ、まだやるんですか?勝てないのに」
「くそ、負けたから何も言えないけどすぐ人を煽るじゃん」
「負けない勝負はしないタイプなので」
ふんすと息を吐いて、メイドさんは両腕を組んだ。
「それで何がお望みだい」
勝てる勝負を仕掛けてまで何をお願いされるんだ。ホールケーキか?ボーナス……は会社にお願いしてもらわないとだけど。
「あの、えっとですね……」
急にしおらしくなった彼女は指をくるくると回している。珍しい、いつも強気なのに。
こういう時は静かに待つのがいいのだ。
数秒後、覚悟を決めた顔をしてその綺麗な唇から言葉が紡がれる。
「ご主人様、あの、私と一緒に実家に来てください!」