第26話 メイドさんと家電量販店②
まだ顔の赤いメイドさんとお店に入る。視界を覆う明るい光と家電たち。
電気屋さんって一風変わった雰囲気だよな。
「わぁご主人様、電動歯ブラシですよ!」
まるでテーマパークに来たのかと思うほどうきうきしている彼女は、小走りで電動歯ブラシの陳列されている場所へ駆けていく。
そんなに心躍るか……?
「歯磨きって面倒じゃないですか」
「それ歯ブラシ2本使ってる俺に言ってる?」
「あ、だめだ。このご主人様歯磨き大好きな人間だった……」
いや好きだろ。口の中すっきりするし、朝にすれば目が覚める、夜にすれば寝る準備ができたって感じするじゃん。
どうして俺は歯磨きの良さを語っているんだ。
「このご主人様って、他にご主人様いないでしょ」
「あれ、それは嫉妬ですか?」
「ちがうわい」
俺の反論を無視して彼女はチェーンで繋がれた歯ブラシを1つ手に取って電源を入れる。
「わ、これすごいですよ!」
ブーンっと低く唸る歯ブラシに大喜びだ。
「これを歯に当てるんですか……ごくり」
いや「ごくり」って自分で言っちゃてる。
「それ唾を飲み込む音じゃん、自分で言ったら意味無いでしょ」
「かわいくないですか?」
「まぁかわいいかかわいくないかで言ったら……かわいいけど」
「じゃあ問題ないです」
もう飽きたのか、彼女は歯ブラシの電源を切ると元の場所に戻す。
そうだ、俺たちは洗濯機を買いに来たのだ。
エスカレーターで家電のフロアを目指す。休日ということもあってか、広いはずの店内も人が多くて狭く見える。
「さて、ぱっと買っちゃいましょうご主人様」
「そうだね、人酔いしそう」
売り場の近くにいた店員さんを呼び止めて洗濯機を買いたい旨を伝えると、小さなテーブルに案内される。
「今はご夫婦でお二人暮らしですか?」
そんな簡単な質問に俺たちは顔を見合わせる。そう見えるのか、という単純な驚きに少しの気恥しさ、なんと答えたものかという悩ましさ。
「そうなんですよ、外に干すのも大変で」
よどみなくスラスラと話すメイドさんをまじまじと見てしまう。
刹那、太ももに鈍い痛み。おいこら雇い主を抓るんびゃない。
「でしたらやはり大きめのものをおすすめします。普段洗濯機を置いてらっしゃる場所の寸法等はおわかりでしょうか」
あ、そうか。家電なんか買うの久しぶりだから、長さを測るのをすっかり忘れていた。これはパンフレットとか貰って出直しかな。
「はい、横幅が……」
流石我が家のメイドさん。準備に余念がない。話はどんどん進んでいき、候補もいくつかに絞れたみたいだ。
……これ俺要らないんじゃね?まるで置物になった自分に悲しくなる。
「ご主人様、これとこれで迷っているのですがどちらがいいと思います?」
「おおいつの間にか……ありがとう。でもメイドさんの中ではもう決まってたりしない?」
「ご主人様?メイドさん……?」
あ、やらかした。いつもの家にいる時の感じで話していたけど、ここ外だった。
店員さんのぽかんと口を開けた顔を見て思う、そりゃそんな顔にもなるわな。
「あ、いえなんでもないです」
店員さんはスっと真顔に戻って、商品説明書を取り出した。
流石接客のプロ、何事も無かったかのように話は進んでいく。何か良からぬ勘違いをされたことは確かだが。
これから先、彼女と外を歩く機会もあるだろう。対策を考えねば。
俺とメイドさんは目を合わせて頷きあった。