第25話 メイドさんと家電量販店①
「ご主人様、ほらほら早く行きますよ」
前を歩くのはメイドさん、今日は私服だ。シックなワンピースに肩からかけたジャケット、何が入っているのかわからない小さな鞄。
端的に言って、大人っぽい。
「メイドさんって外に出る時ちゃんと私服なんだね」
「前スーパーの帰りにお会いした時も私服だったじゃないですか」
「そうだけどさ、普段はメイド服しか見てないから」
あごに立てた指を当てて首を倒す彼女、幼い言動も知っているからか大人っぽい仕草に心臓を揺さぶられる。
何かを思いついたように瞳を光らせたメイドさんは、立ち止まってこちらを向く。そのまま身体を傾けて一回転。
どうやって落ちずにいるのかわからないが、ジャケットがふわりと膨らんだ。
「どうでしょう?」
色んな感情がその一言に込められていることは、声色を聞けば明白で。
いつもより少し距離が近いのもこんな態度と関係があるんだろうか。休日に外へ出かけるのは久々だから、俺もテンション上がっていることは否定しないが。
「とてもよくお似合いで」
「うーん、45点ですご主人様」
はぁ、と心底残念そうに彼女はため息をつく。
「やけに低くない?褒めてるのに……」
「足りてないんですよ、1番大切な言葉が」
チッチッと俺の目の前を指がメトロノームのように往復する。家とは立場が逆転しているな。
たまにはこんな日も悪くない。
「え、これ答えるまで先に進めない感じ?」
「そんなことはありませんが……もし正解できたら今日は1日私が上機嫌ですね。もしかすると明日の晩ご飯とかまで豪華になるかも」
ならば頑張らねば。
現金だな、なんて思うが胃袋どころか生活を掴まれてしまっているのだから仕方がない。それほどまでに彼女の料理は美味しいのだ。
「さてさっきのが45点で0点じゃなかったということは」
「ということは?」
俯く俺を下から彼女が覗き込む。メイドさんが来た当初に比べて、顔を近くで見る機会も増えた。それは映画が終わったあとのソファでだったり、食器を洗っている時のキッチンだったり。
そこで違和感に気がつく。いつもより目元が輝いていて唇がぷるっとしていて、頬が……。
「綺麗だ」
「ふぇっ!?」
ばっと勢いよく距離をとるメイドさん。
「あ、ごめんつい考えてたことが」
「い、いいです……それ以上喋らないでください」
「いやでもまだ答え出せてないからな」
「いいって言ってるんですご主人様!」
そのまま彼女は俺の袖口を掴んで前へと歩き出した。
唐突に引っ張られたから身体が前につんのめる。俺の耳が彼女の口元を通り過ぎる時、ほんの少しだけ空気の揺れを感じる。
「120点でした」