第23話 メイドさんとフワサクシュークリーム①
充実したお昼休みを過ごしたからか、仕事はかなり捗った。
完全に夜の帳は下りているものの、まだ人間の形を保てる時間に退勤できた。その証拠に会社から出るとお店の電気は付いているし、まだまだ退勤する同類たちの足音も聞こえる。
最寄り駅に着くと真っ先にシュークリーム屋さんへ。
近づけば甘い香りが前から押し寄せる。疲れた頭に甘い香りがダイレクトに届く。
そのままフラフラと列に並ぶ。こんな時間でも、意外と甘いものを欲している人は多いようだ。
メイドさんは普段、夕飯の買い出しのついでに甘味を買ったりしているんだろうか。
いつの間にか冷蔵庫に増えてたりするんだよな。
「いかがなさいますか?」
ぼーっとしていたらもう自分の番、慌ててメニューを見ると、とんでもない種類のシュークリームが。
プレーンや抹茶といった馴染み深いものから、名前を見ただけではどんな味なのかすぐには想像できないようなものまで、多種多様な甘い爆弾が俺に選択を迫ってくる。
ここはいつか行ったケーキ屋の店員さんの言葉を信じよう。その道の人ほどシンプルな物に光を見出すのだと。
◆ ◇ ◆ ◇
いつものように鍵を回して少ししてからドアを引く。すると、
「おかえりなさいませ、ご主人様」
恭しく頭を下げるメイドさんがそこにいるのだ。
「ただいま、メイドさん。今日もお疲れ様」
「ご主人様もお疲れ様でした、鞄いただきますね……む、この匂いは」
彼女はずいっと俺に近づくとくんくんと鼻を動かしている。もう行動が動物のそれだろ。
「ははーんわかりましたよご主人様!あまりのお弁当の美味しさにシュークリームを買ってきてくださいましたね!」
ふふんっと自慢げな顔で俺の鞄をもぎ取るメイドさん。
「なんでもお見通しだね、メイドさん」
口角が上がるのを抑えられない。やっぱり彼女は甘いものに目がないのだ。
シュークリームを買ってきたのは間違いじゃなかったらしい。
すると彼女はきょとんとして動きを止めた。
「あれ、本当にそうだとは思わず……ちょっと恥ずかしいですね」
急に素に戻ったのか、俺の鞄を持っていない方の手でパタパタと顔を扇ぎながら、奥の部屋へと消えていく。
「歩くの早いって」
「ちょっとゆっくり着替えてきてください、ご主人様」
キッチン辺りから声が飛んでくる。
なんだなんだと訝しみながらも、俺はジャケットを脱いで自分の部屋へと向かった。