第21話 メイドさんとお弁当①
「ご主人様、今日の夕食を作りすぎたので、良ければ明日のお昼ご飯に持って行きませんか?」
そんな申し出を受けたのは、晩ご飯も食べ終わって血糖値の乱高下に敗北していた時だった。
お弁当……しかも手作りの……。
あまりに魅力的な提案に身体も勝手に起き上がる。
「え、いいの!?」
「うわ、突然起き上がらないでくださいびっくりした!」
いつの間にかソファの近くまで来ていたメイドさんが後ずさりする。
ここだけ切り取ったら俺やばいやつだよな。家に別にお付き合いしているわけでもない女性を呼んでメイド服着せて、後ずさりさせてるなんて……社会的信用なんてあったもんじゃない。
「失礼失礼、ちょっと嬉しすぎて」
「そこまでですか?毎晩私の作ったご飯食べてるじゃないですか」
「それはそうなんだけどさ、外だと……というかお弁当だとまた違うというか」
会社でもメイドさんのご飯が食べられるのが嬉しいのはもちろん、お弁当ってそれだけでテンション上がるじゃん。
昼休みが来たらいつものそのそと外へ出て、変わり映えのないレパートリーのカップ麺を買って食べているのだ。
「そこまで喜んでもらえるなら作る方としても嬉しいですけど……普段どんな昼ごはん食べてるんです?」
おっと、風向きが変わったな。
早急にこの話題を終わらせなければ。
「そこはノーコメントで」
再び身体をソファに倒す。くそ、自分の部屋に戻るためにはメイドさんの横を通らないといけないが絶対に捕まってしまうだろうな。
「許されるとお思いで?こと生活に関してはご主人様に人権がないのは明々白々だと承知しているのですが」
「なんでそんなに突然冷たい声出せるの、というか俺雇い主のはずなんだけど……」
「私が来た時のご主人様の生活を思い出してもらえれば」
あの時はほんと限界だったもんな。カップ麺だけで1週間くらい過ごしていた気がする。しかも一日一食で。よく身体が耐えたと思うわ。
「あの時はやばかったよね〜」
「笑いごとじゃないですからね、ほんと……私を呼んでくださってよかったです」
そう言いながら彼女がキッチンへと歩き出す。よし、助かったか……。
「ご主人様に倒れられたら困るので、カップ麺もほどほどにしてくださいね?」
こちらを見ずに投げかけられた言葉に表情が固まる。全部見透かされてるじゃねぇか。
「善処します」
たまには食べたいし。
すると彼女は再びソファのそばに来て指を差し出した。
「約束ですよ」
触れるのは初めてじゃないはずなのに、その細い小指はやけに柔らかかった気がした。