第15話 メイドさんと洗濯物
「メイドさんメイドさん、最近寒くて外に洗濯物干すの大変じゃん」
洗濯カゴを持った彼女はカラカラとベランダへ続く窓を開ける。吹き込んでくる風、それでも塵のひとつも舞わないところ、メイドさんの腕が光っている。
「確かにこの時期は大変ですね……」
手をさすりながら彼女は言う。
「そこでドラム式洗濯機を買おうと思うんだ、あ、俺のパンツは見せびらかさなくていいから」
ひらひらとこっちに向かって俺のパンツを振るのやめてくれ。
「大変ありがたいお話ではあるのですが、せっかく私を雇うためにお金つかってるのに、ドラム式洗濯機ともなると……」
ドラム式洗濯機を買う代わりにメイドさんを解雇するなんてするわけないのに。
「お金のことは心配しないでいいんだよ」
納得したようなしていないような顔で、彼女は洗濯バサミをぱちぱちと鳴らした。
洗濯物を干し終えた彼女は部屋に帰ってくると、俺の隣にぼすんと腰を下ろす。
「お疲れ様」
「はぁ〜ありがとうございます。手がひえひえです」
恐らく冷たいであろう手をこちらへ向ける。やめろ、絶対触る気じゃねぇか。
避けるように立ち上がってキッチンへと向かう。
「コーヒーでもいれようか?」
「チッ……いえ、それは私が」
「今舌打ちした?」
やっぱり解雇した方がいいかもしれない。
「まさか!どこにご主人様相手に舌打ちするメイドがいるんですか」
語るに落ちている。ここにいるだろ。
だがしかし、「駄メイド」とは口が裂けても言えないほどに、彼女の家事は完璧なのだ。
俺を追いかけてくるようにメイドさんもキッチンへ入ってくる。
横並びで作業する日も、当初に比べれば増えたよなぁ。
それでもやっぱり彼女は家事を譲らない。別に少しくらい楽したっていいと思うのだ。それこそ雇い主がいいって言ってるわけだし。
「ご主人様、今までコーヒーなんていれてこなかったでしょう?私は修行してきたので任せてください。自分で言うのもなんですが、味には少しばかり自信があるので」
そこまで言われては頷かざるを得ない。
「じゃあ俺は何をすればいいんだ……」
「どしっと構えていただければいいんです。か弱い女の子に自分のパンツを干させて」
「やっぱり煽ってるよな。洗濯機は買うから」
「いいえ?そんなまさか。でもドラム式洗濯機は嬉しいです」
そこから少し、2人とも口を開かない。
沈黙が苦痛じゃないのは、信頼関係ができているからだと信じたい。
やがて部屋には芳醇なコーヒーの香りが漂い始める。その落ち着く匂いに身を預けるように、俺は棚からメイドさんお気に入りの洋菓子を取り出した。