第14話 メイドさんと昼下がりのケーキ③
「ご主人様って、好きなものは最初に食べますか?それとも最後に?」
そんな疑問が投げかけられたのは、ケーキの半分が胃に収まった頃。
彼女のケーキにはまだ宝石のようないちごが乗っている。
「ものにもよるけど、最後が多いかな」
自分のショートケーキを見ると、そこには同じようにいちごが乗っている。
「あら、そしたら一緒ですね」
彼女がケーキにフォークを入れると予想以上に大きな塊がフォークについてくる。それでひと口ならあと3口で終わってしまうだろ。
「メイドさんも最後に食べる派なの?」
「不本意ながらそうですね。本当は序盤中盤終盤全部好きなものであって欲しいのですが」
「いや、俺のいちごはあげないけど」
「バレましたか……口が滑りました」
もっきゅもっきゅと咀嚼しながら彼女は宣う。
まったく油断も隙もない。
「それでご主人様、今日はどうしてケーキ屋さんに寄ったんですか?」
ほんとに観察眼が鋭いことで。
「早く帰れるしたまには甘いものでもって、ケーキ屋さんでも言わなかったっけ?」
ふふ、と彼女は笑うといちごにフォークを刺した。
小さく口を開けて、その真っ赤な唇に同じ色のいちごを運ぶ。
「ほんとに?」
「……ほんとに」
何を疑われているんだ。いいじゃないか、アラサーの社畜が1人でケーキ屋さんに行っても。
「でも私お会計終わった後に聞いたんですよね〜ご主人様が誰かにケーキをプレゼントするつもりだったって」
やりやがったなあの店員さん……心の中で彼女が親指を立てている光景が浮かんだ。
余計なことを……!
「き、聞き間違いじゃないかな」
「この私が!ケーキに関する話を!聞き間違えるとでも!」
やけに強気なメイドさんはフォークを握りしめてプルプルしている。
その後すっと真顔になると、紅茶の入ったカップに口をつけた。
「でも私はご主人様から聞きたいと思うのです」
くそ、メイドさんはこの状況を確実に楽しんでる。しかもかなり。
「何を言えばいいのかな」
「そりゃあもちろん、どうしてケーキ屋さんにいたのかですよ」
はぁ〜とため息をついて、俺もいちごにフォークを入れる。
甘さで口が満たされる。これくらい甘いなら少しくらい苦々しい顔をしていても釣り合いが取れているだろう。
「いつもお仕事を頑張ってるメイドさんに甘いものを買って帰ろうと思ったんだよ」
そう言うと彼女は口に手を当て上品に笑う。
「えぇありがとうございます、ご主人様。これからも頑張りますね」
普段とは違う、自然な微笑みに少しだけ心がざわついた。