第13話 メイドさんと昼下がりのケーキ②
普段は1人で歩く道を今日は2人で歩く。彼女に合わせて歩幅は少し狭く、テンポは落として。
サラサラとスーパーのビニール袋がこすれて音が鳴る。流石にこの2人で重い方をメイドさんに持たせるのもどうかと思い、彼女はケーキ防衛隊長に任命した。
両手で大事そうに小箱を持つ彼女は上機嫌だ。
「帰ったら美味しい紅茶でも淹れましょうね」
ちらりと隣を見る。まるで花が咲いたように笑顔を浮かべるメイドさん。
「楽しみだな、一人暮らしの時は紅茶なんて1回も飲んでないんじゃないかな」
「あらそれはもったいない」
そんなどうでもいいことを話しながら、俺たちは家へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ところでメイドさん」
帰ってすぐ彼女はメイド服へと着替え、今は紅茶をいれてくれている。
「どうされました?やっぱりお腹いっぱいでケーキが食べられないとかですか?私は大歓迎ですが……」
「めっちゃ喋るじゃん」
「ごほん、ケーキ2つ食べたいとか思っていませんとも」
「語るに落ちてるって。聞きたかったのはさ、外ではメイド服着ないんだね?」
彼女の動きがぴたっと止まる。
「もちろん着たいのは山々ですが……」
再び手を動かす。
そのうちいい香りが漂ってくる。会社でも外でも嗅いだことの無い匂いに心が穏やかになる。
「でもうちに初めて来てくれた時はメイド服だったよね」
「あれは……突然家の前に初対面の女の人がいたら怖いかなっていう気遣いです」
「突然家の前にメイドさんがいるのも怖いけどね!?なんなら早く部屋に入れないと周りの人からなんて思われるか……」
「では作戦が功を奏したということで」
ティーカップとスプーンを持って彼女がリビングに現れる。
先ほどよりも近くで聴こえる声に思わずどくっと心臓が跳ねる。
「ケーキ取ってくるね」
いたたまれなくなって、メイドさんとすれちがうようにキッチンへ。
「あ、ご主人様、フォークもお願いしていいですか?」
「もちろん」
食器棚を開けて疑問に思う。さっき彼女が出していたティーカップって元々うちにあったっけ?
ふとキッチンを見渡すといつの間にか物が増えている。お皿やコップ、カトラリーは全部2人分に、スポンジひとつとっても自分では買わない動物の形をしたカラフルなものに。
改めて「2人で暮らす」という実感が湧いてくる。
「ご主人様、フォークないですか〜?引き出しの右側にあると思うんですが」
遠くで彼女が呼んでいる。
メイドさんの方がうちのことを誰よりも知っているのは当たり前だがそれでも、それでも心を満たすちょっと照れくさいこの感覚は、きっと紅茶の香りだけでは説明できない。