バーの恐怖
*後書きを必ずお読みください
その夜、特に客との会話もなく、
バーが静けさに包まれていた頃、店のドアが音もなく開いた。
女が一人。
雨に濡れたコート、肩までの黒髪、濃い影を引いた目元。
年齢は二十代後半か。
言葉より先に、空気が先に入ってきたような、妙な違和感があった。
「……エンジェルショット、ください。ライムで」
その言葉に、マスターのケイは一瞬だけ手を止めた。
「……かしこまりました。どうぞ、こちらの席へ」
慣れた手つきでグラスを並べながら、ケイは目線だけで奥のスタッフに指示を送る。
警察への通報は数回のタップで済む。いつもの対応だ。
女は静かに座ると、カウンターの端に視線を落とした。
追われている、というよりも、何かを探しているような眼差しだった。
「お名前、伺ってもいいですか?」
「ミナ、と言います」
「今、お一人ですか?」
ミナは頷いたあと、ふっと笑った。
ケイも、彼女を安心させようと、曖昧に笑って返す。
ミナの視線は片付けの済んでいない空席にいっていた。
「あぁ、先程までお客さんがいらっしゃったんですよね、
常連の方で、片付けるのがまだでした」
言い訳みたいな説明をして、彼女を安心させようとしてみた。
「そうなんですね……」
少しの沈黙の後、私は思い出したように彼女に質問をした。
「そういえば、追ってきてるのは、どんな人ですか?」
彼女は数秒、無言になる。
そしてぽつりと答えた。
「目が、空っぽで……笑ってるの。
私のこと、好きって言うくせに、毎晩、殺す夢を見るんです」
彼女の体は震えているようだった。
「……安心してください。まもなく警察が来ますから」
ふと視界に入った彼女の手。
血のような赤い染みがあるように見えた。
乾いていたが、つい最近のようにも見える。
「……そうですね。あなたは、私のこと信じてくれる?」
「もちろんです」
信じるものを知らないまま、私は返事をした。
「じゃあ、さっきまでここにいた男のことも信じてくれる?」
「……どなたのことです?」
「そこの席の人」
そう言って彼女が指差した先は、さっきまで常連のいた空席だった。
だが、今はいない。
深紅色の液体を残したグラスと、まだあたたかい灰皿だけが残っている。
「……お連れでしたか?」
「ええ、これで七人目」
「……?」
グラスをよく見ると、中に何か白く尖ったものが沈んでいる──抜けた歯だった。
「エンジェルショットって便利ですね。私がどこにいても、"被害者の顔”ができるんです」
**免責事項**
この小説はフィクションです。
登場人物、会話、出来事、設定はすべて架空のものであり、
実在の人物や事実に基づくものではありません。
"Angel Shot"の安全システムについて知りたい場合は、この小説を参考にしないでください。
"Angel Shot"は現実世界で人々を守るために設計されており、
ご自身で調べていただくことを強くお勧めします。
"Angel Shot"を理解することは、将来、ご自身の安全に役立つかもしれません。