砂漠の珍味と謎
「うおおおお」
吹き付ける大量の砂に耐えるように俺は雄叫びをあげる。
鮫のようなシルエットが、舞い上がる大量の砂の向こうに映る。砂嵐のように思えたそれは俺たち2人を囲むように回る3匹のシルエットによって巻き起こされている。まるで砂の壁のようだ。外套のフードを深く被り砂を防ぐ。指示を仰ぐようにカイに目をやると、いつの間に用意していたのか薄い暖色系のレンズと赤いレザーでできたゴーグルをかけ、矢を引き絞っていた。銀色の弓の両端についた車輪のような機構がギリギリと音を立てている。瞬間俺は役割を理解した。シルエットが砂の壁を突き破ってカイの背後から飛びかかる。ラカの背を蹴り、カイとすれ違うように飛び出してその赤茶色の鮫を切り付ける。カキッ、剣が弾かれる。鮫は軌道を変え砂に潜った。カシャーンという音がしたかと思うと俺の背後を追って飛びかかってきた2匹の鮫がドサッという鈍い音と共に地面に落ちた。砲丸で撃ち抜かれたかのような貫通した傷。その事実に驚く暇もなく俺たち2人の間に地面を泳いでいた最後の鮫が飛び上がる。カシュッという軽い音がしたかと思うと鮫がヒュガーという声とも呼吸とも取れない音を立てて地面に落ちた。その脳天には黒鉄色の矢が深々と刺さっていた...。
「あっち〜なー。」
あまりの暑さに苛立った声を上げるアリオン。
「まぁこれ食って元気出せよ。」
何やらラカ上で作っていたカイが魚の刺身のようなものを渡してきた。
「何これ生じゃん。」
と初めて見る食べ物に率直な感想が口をついてでた。「フィロールじゃ刺身はあんまり食えないもんな。近くには川しかねえし。さっきの鮫みたいなやついただろ?あいつはデザームって言ってな刺身が美味いんだよ。狩猟難易度が中の上程度だからすこし値は張るが、今回自分で狩ったから儲けもんだ」
確かに生の状態なら砂漠のないノキスミールで食べれる場所も限られる。知らない訳だ。ひとくち頬張ると、すこし甘みがある。脂は程よい感じでさっぱりしているがアツい砂漠で食べるに適した水々しさも感じる。
「これは美味い。」
「そうだろ。デザームの刺身は専用のソースがあるんだがそれをつけるとまた一段違う、サフラナティアで食べれるかもな。」
それは楽しみだ。
デザームに襲われたことが嘘のように思えるほど順調な道のりだった。夕日が砂漠の向こうに沈みかけて綺麗なオレンジ色になる頃には俺たちはサフラナティアの入り口まで来ていた。
「途中小さな村もなかったから本当にあるのか心配したぜ。」
と言うとカイが
「まぁ砂漠は環境的に厳しいからな。ここら一体の人間はオアシスのあるサフラナティアに全員が住んでる。ミラヴィアにも1日で行ける距離だし。サザリオンにもまぁ頑張れば1日半って言ったところか。」
街中に入るとオレンジや赤、黄色のカラフルな砂漠地帯風の家が立ち並び、街の中央には大きな遺跡、大通りには水や食料などを中心に様々な交易品を売る市場が見える。遺跡の反対側にはオアシスがあるらしい。
「ここは夜になったら星が綺麗に見える。みんなで星を見ながら食事をとるのさ。ご先祖様を導いてくれたことに感謝してね。」
補給のために立ち寄った露店の老婆が言う。
「へえー。星がご先祖様を導いた、か。」
砂漠の街の文化にふとノキスミールでのあの出来事を思い出す。
「あの奥にある遺跡はそのご先祖様と関係あるの?」気になって聞いてみると。
「そうさ。あの遺跡はご先祖様が、この大陸に上陸した時に作った街のあとさ300年前とも500年前とも言われている。」
「へぇー。」
何をいっているんだこの人は。今は星暦208年。つまり大陸の開拓者が最初の国であるノキスミールを建国してから208年だ。ボケてるのか?
その日は2000r払って一番安い宿に泊まった。今日の旅を振り返りながら簡素なベッドに飛び込んだ。戦闘のことを思い出す。なんとも言えない気分だったが疲れから泥のように眠りについた。