初仕事
冒険者が傭兵?という疑問もあるだろう、星興国軍では軍の人員の60%が正規兵40%がその他の戦力である、その中でもギルドからの傭兵が全体の25%を超えるとも言われている。
傭兵仕事、特に公的なものは要するに契約社員のようなもので正規軍に入るより仕事が簡単かつ辞めやすいというのが冒険者側の利点である、さらにいえば冒険者を登録した国であれば無条件で採用することなど比較的簡易な仕事である。
最上級になるためにまずは元手を稼ぐこと!と考え受注した傭兵としての初仕事、国境沿いの大河でありフィロールの丘のすぐ下を流れるイテルスター川の偵察任務を行なっていた。国境沿いではあるがフィロールの立地的側面も相まってイテルスター川周辺は比較的安全だ。ゆえに国境警備という仕事も冒険者に任せられる。
今回は5人で小隊を組んでいるのだが正規兵3冒険者2が傭兵仕事の基本的な小隊構成らしい。
「楽な仕事だから緊張せずに行こうぜ、新人!」この小隊のもう1人の冒険者である弓を携行した男が声をかけてくれた。
「うん、がんばるよ。あと俺の名前はアリオンな。」
「おう、アリオン。俺はカイだ、よろしくな」
「よろしく。ところでそろそろ何かあってもいいんじゃないか?正直初仕事がこれだと拍子抜けするよ」
「まあそういうなよ簡単な仕事だけどモンスターは出るし討伐したら追加報酬ももらえるんだぞ?」
「え?マジ?」と目を輝かせていると草むらからガサッと音が聞こえた...
身構える暇もなく草むらの陰から蛾とも蝶ともつかない、人ほどの大きさの白いモンスターが飛び出してきた。
その薄氷のように透き通り輝く羽根とその大きさに呆気に取られ初動が遅れる。
その間カイは一発目の矢をつがえ放つ。
しかし大きさに比べ動きが速いモンスターは矢をかわし、小隊の上を輪を描くように飛んだ。
白い鱗粉が降り注ぐ、強く甘い香りが広がる、途端にモンスターは5体に分身した。
カイは2本目の矢をつがえる。ここでアリオンが動く「ふんっ」直感で振り下ろしたその剣はモンスターを真っ二つに切り裂いた。
分身は消えた、本体が息絶えたからだろう。
「はぁ、はぁ、ア、アリオンお前やるなあ」
「そうでしょうとも」あまりの急な出来事に肩で息をしながら二人は笑みを浮かべる。少し胸がざわつくが急な戦闘だったからだろう...
「い、いやぁ助かった。ありがとうな、冒険者の二人」
ここまで存在感が全くなかった正規兵の一人が兜を脱ぎながら言う。意外と優しそうなおっさんだ
「いえいえ、しかしなんですかこいつ。こんなのが出るなんて聞いてないですよ!」とカイが言う。
「俺たちにもわからんよこんなやつ見たこともない。レアなんじゃないか?」
レアだったのか...
ギルドには簡素な宿が併設している。その日の報酬の5%を払えば泊まれるがこの価格設定がなかなか良い仕事をしている。割合で値段が決定すると言うことは報酬が高ければ高いほど値段が高くなると言うことだ。それゆえに宿よりも値段が安くなる冒険初心者が気軽に利用でき、高ランク冒険者によって満室になることはないのだ。
宿で初仕事の余韻に浸る。どっと疲れを感じつつも、討伐したレアモンスターはルルファアンと言うらしい。何でもあの地域では初めて発見されたとか。それを一撃で仕留めたということとその臨時収入で笑みが止まらない。
「しっかし初仕事でレア討伐とはなかなか見どころがあるなぁアリオン。」
「...ってなんでお前もいんだよカイ。」
「まあまあ、俺はマジでお前に見どころを感じてんだ。次の仕事も一緒にやらねえか?」
新たな冒険の予感がした