夜に生きれば空は晴れる
午前4時半。
アラームではなく、自然と目が覚めた。理由はない。ただ、空気の匂いがいつもと違って感じたからだ。
顔を洗い、少し冷えた空気を肌に感じながら、スニーカーを履いた。なんとなく誰もいない道を見て、感じて、歩いてみたくなった。
外は、夜の名残が少しだけ残っている。けれど確かに、空の上の方がうっすらと白み始めていた。
街灯はまだ灯っているのに、空からはまだ太陽の気配はない。
まるで、夜と朝の狭間に私が存在している。そんな気がした。
歩道には誰もいない。車も通らない。聞こえてくるのは、自分の足音と、小さな鳥の鳴き声、そして微かな風の音だけ。
冷たい空気を吸い込むと、肺の奥まで澄みわたる気がした。見慣れた通学路や公園が、どこかよそよそしい。
それでも、嫌な感じはしなかった。むしろ、ここじゃない「どこか」に入り込んでしまったようで、心が静かにほどけていく。
そんな時間もあっという間に終わってしまう。
遠くの方で、コンビニのシャッターがガラガラと上がる音がした。
人の動きの気配が、ようやくこの世界から元の世界に戻ってくる合図だった。
少し残念だけど、ほんのり安心もする。
空が、夜から朝へとゆっくり色を変えていく。
冷たい空気がまだ残る中、私はポケットに手を入れて、ぼんやりとその音のした方を見た。
今日が始まってしまう。
そんな風に思うのは、きっとこの時間をまだ手放せずにいるからだ。
私はゆっくりと踵を返し、帰り道に歩を進めた。
今日が始まる前の、この静かな時間。
誰にも見つからないように隠された、もう一つの朝。