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ロボ観音と田螺谷兵庫

〈蜆蝶可憐な(はね)と共に生き 涙次〉



【ⅰ】


 武里芳淳は夜になつて意識を回復した。カンテラ事務所、假眠用のベッドの上で、である。


 芳「あの人は...?」悦美「消えたわ。貴女の事を置いてね」芳「さうですか...」

 これで【魔】の男には懲りて慾しいカンテラ一味であつたが、芳淳にはまだ未練があるやうだつた。

 芳淳のたつた一人の身内、兄・武里倫理(たけさと・ともさと)が報せ(テオが連絡を付けた)を聞き、迎へにきた。前述の通り、倫理はテキ屋を営んでゐる。名刺(またしても名刺だ!)には、(有)武里興業代表、とある。礼金を幾らか置いて、芳淳の身柄を預かつた譯だが-

 


【ⅱ】


 大體に於いて、倫理は芳淳と兵庫の結婚には叛對だつた。何度も、「田螺谷総研」と云ふのは所謂幽霊會社であると、芳淳を思ひ留まらせやうとしてゐたのだが、惚れた弱みで、彼女は田螺谷兵庫の妻になる事を諦めきれない。辻占など、人生の酸い・甘いを嚙み分けてする商賣だが、芳淳はまだそれを知らぬ。倫理が思ふに「まだ()()()」の儘、世間に踏み出さうとしてゐる芳淳であつた。


 魔界。「ち、田螺谷も駄目か」と鰐革男。「もう少しの處まで行つたのだが... 俺の狙ひは間違つてゐなかつた」鰐革、幾分かの自信は取り戻したやうである。


 鰐革は、ルシフェルのゐた頃の、中央集権的な魔界の秩序を再び造らんと、自らの親衛隊を組織しやうとしてゐた。狙ひとしては惡くない。要はその「質」だ。【魔】たちは、明らかに弱體化してゐる。鰐革は、己れの肉片から(これしきの痛みなど、何でもないわ、ぷしゅるゝゝ)ホムンクルスを育て、彼ら一様に同じ顔をした【魔】の隊長に、「ロボ観音」を据えた。「ロボ観音」-云ふ迄もなく、その名から、ロボットである事は明白。だが、そのキャラクターの詳述は、後に回すとしやう。



【ⅲ】


 倫理は、まだひ弱な芳淳の自我で、彼女が世間を渡つて行けるか、と心配の余り、彼女を病院に入院させる事にした。精神病院には、本当に病氣である人びとだけでなく、かう云つた「家庭の事情」で入院してゐる、そんな患者が尠なくない。芳淳が兵庫の事を諦める迄、病院に置く- 苦肉の選択である。


 兵庫、魔界で、消されると云ふ事はなかつたが、先のしくじりから、鰐革親衛隊からは外された。だが彼は、「ロボ観音」を秘密裡に懐柔し、取り入つてゐた。案外しぶとかつた譯である。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈同じ顔してゐる現代男子たち昔の事は知らぬが華よ 平手みき〉



【ⅳ】


「ロボ観音」-人間界に一大カルトを造り上げんとする、鰐革の苦心の作である。その目から發されるホロスコープで、人間たち、特に現狀に不滿を持つ者らに幻覺を見せ、カルトに取り込む。本人(?)は、教祖である鰐革の補佐役、と云ふか、偶像役なのである。


 鰐革「さて、お集まりの諸兄姉よ。この有難い『ロボ観音』さまの功徳に縋れば、あの世に於ける身は安泰であるぞ」その脊後には、キリストの如く十字架に架けられたロボ観音が、ゐる。ホロスコープ- 上司からパワハラを受ける自分、世間から孤立した自我、何をやつてもちぐはぐな人生の面倒臭さ... 投影は、多くの人びとの心を捕らへた。


 親衛隊、JR中野駅から、お揃ひのお仕着せ、軍服紛ひのコスチューム(三島由紀夫の『盾の會』の如き)で、野方の所謂「カンテラ通り(・ストリート)」近邊まで練り歩く。鰐革は、「一つの流れでは、カンテラ一味には勝てぬ。幾つもの潮流で攻めるべき」との信念で、ロボ観音カルト、親衛隊、と云ふ、謂はゞ立體的攻撃を仕掛けてきたのだ。カンテラ事務所前、「この住宅地、魔界鰐革男親衛隊が占拠した」-ありもしない事を宣言し、近隣の家々を、緊張感で包んだ。



【ⅴ】


 やはり、自分たちが近隣から孤立してゐる事實を、カンテラに思ひ知らせる。→そしてカルトに、近隣住民を取り込む→結果、カンテラ一味の居場處なくなる。大東京はその一角より、人間界から脱落してゆく... 鰐革の書いたシナリオは、完璧かと思はれた。


 しかし、こゝで、田螺谷兵庫の要らぬ茶々が入つた。「シュー・シャイン」、カンテラに耳打ちする。「奴らは、不平分子を抱へ込んだ儘、事に当たつてゐます。自滅を待つのが得策でせう」カンテラ「不平分子?」シュ「田螺谷兵庫です」


 兵庫、ロボ観音に吹き込んだ。「お前は幻想の世界でのみ、聖者とされてゐるが、本当の姿を鏡で見てみろ。醜いロボットに過ぎぬのだ、お前は」返事はない。言葉も話せぬやうに造られたロボ観音。内攻し、そのちつぽけな脳は、ショート・サーキットを起こした。


 その結果- カルトの集會で、ロボ観音、胸の内に取り付けられた機関銃を乱射。鰐革の信者たちから、多數の死者、重傷者が出た。

「な、何をする!!」そして鰐革本人にも、機関銃を向けたロボ観音。兵庫と共に、叛逆の【魔】となつた。



【ⅵ】


 彼らの集會處にふらりと現れたカンテラ。長刀を拔き放ち、それでくるりと円形を描く。と、機関銃の彈丸(タマ)は、剣の刀身が恰も磁石であるが如く張り付き、カンテラ云ひ放つた「秘術・退魔磁界!!」



【ⅶ】


 その後の兵庫の行方は、誰も知らない。だが、鰐革、腐心の作戦は失敗に終はつた。その後幾度もカンテラ一味を悩ませる事になる鰐革親衛隊も、始まりはこんなものに過ぎなかつたのである。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈鰐鮫の背で白兎ほくそ笑む失敗したのは誰だつたのか 平手みき〉



 今回はこれで。新展開、お樂しみ頂けたでせうか。ぢやまた。


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