安田
お前、今パソコン見て遠隔操作の可能性もあるとか思っただろう?
その言葉に後藤はドキッとした。自分では表情に出していないつもりが、安田には見破られたからだ。
1人で思い悩むな。俺にも話せ。
確かにあのパソコンで遠隔操作は可能だろう。しかし、パソコンを押収して捜査する前に、鈴木だけを見ろ!
...お前には、悔しいが推理力がある。俺にはよく分からん事までお前は考えている。だが考えすぎてやしないか?二宮の存在がずっと頭から消えないでいるだろう?
後藤はハッとした。確かに二宮は防犯カメラに写った。しかし、今のところ二宮の存在が明らかになっているのはそこまでだ。二宮という存在が頭にあるかぎり、どうしてもそちらに意識が向いてしまう。家路写楽を捕まえた時も、遠藤平吉を忘れたことで事件解決にまでこぎ着けることが出来た。ここは一旦二宮の存在を頭から消そう。そう思った。
安田。ちょっと聞いてくれるか?俺の考えを。
ああ。どんと来い!
俺はずっと二宮が防犯カメラに写ったその時から、この事件に関与していると思っていた。だが、お前の一言で吹っ切れた。二宮は防犯カメラに写っただけだ。その存在をちらつかせることで、この事件に二宮が関与していると思わせることが二宮の狙いだった。
それで?
この事件は2人の容疑者がいる。鈴木と時任だ。何らかの形で2人はこの事件を起こそうと思った。愉快犯かもしれん。そこは捜査していけば分かる事だが、2人は必ず関係している。
根拠は?
...勘だ。
証拠もない。しかし、俺の考えが間違いなければあの2人だ。
いいか。あの2人は何らかの形で接点を持ち、この犯行を思いついた。
ネットカフェ事件の再現だ。それも、遺体のない状態で再現をする。
まず犯行に使われたのは大量の血液だ。それを何処から入手したのか。答えは鈴木の母親だ。しかし、100%母親の血液を使用してはすぐにバレてしまう。そこで、血液を混ぜることを思いつく。誰でもいい。鈴木自身の血液、そして、時任の血液、母親の血液。それらを混ぜたと仮定しよう。それで血液パックを天井裏の点検業者のフリをして部屋の上に置く。次元装置を使って血液パックから血液を絞り出す。
血液の検査をしても誰のものとも判別できなかったのは、もしかしたら、鶏や豚などの家畜の血液も混ぜていたとなれば分からなくなる。
...お前、恐ろしいことを考えるな...
だが、これを立証するには証拠が少ないんだ。母親はあの通りだしな。証拠が消されている。
そこら辺は任せておけ。
まずは血液だ。もう一度照合させてみよう。鈴木と、時任が見つかれば時任と、そして母親の分だな。後は、次元装置なんだが、どのタイミングで外したんだ?
そこは鈴木が外せばいい。店長だからな。バイトが帰った後にどうにでもなるさ。
とりあえず、俺は母親の血液を探す。お前は適当に鈴木と時任の血液を採取してくれ。
いや、そこは時任だけで充分だと思う。
何故だ?
鈴木と母親の血液はたぶん、鈴木の家にあるからさ。
どういうことだ?
まぁ見ていろ。
このやり取りを山下は見ていた。ようやく2人がお互いの事を認め合い捜査をし出した事に目頭が熱くなった。そして、ようやく隠居できると心の底から安堵した。