可能性が消えない現場
違和感というか不快感というか、とにかく、遠藤平吉にしては多くの可能性を残した現場だと思います。
遺体がないのにか?
はい。遺体がない事それ事態にも可能性は残ってます。遺体がない=殺されていないという可能性があります。血液にしろ、色々と混ぜた血液というのも可能性ですし、天井裏の残された血液、次元装置だったのかどうか、そこまで考えると、天井裏の点検をした業者の中にも犯行が可能な人物はいますし、私用で抜けた店長の鈴木、他2名の聴取もまだです。
そもそも、防犯カメラに写っていた人物が二宮である可能性も疑わしい。
おいおい。考えることだらけじゃねぇか。
その通りです。遺体がないということだけで、これだけ可能性が出てきてしまう。これは明らかに捜査を妨害している。されていると言った方が正しいですかね。
二宮め。
いや、それも疑わしいです。
何故だ?二宮=遠藤平吉ではないのか?
家路さんの手記を読ませてもらったんです。押収した捜査資料にありました。
その手記には、
遠藤平吉は他人に付与できる
そう書いてあったんです。それが本当に可能ならば、二宮=遠藤平吉という図式も成り立たない。
家路の時の内田や二宮みたいにか?
そうですね。家路さんの手記によれば、最初の実験体は佐々木史郎のようです。その後、内田や二宮にも遠藤平吉の人格を付与し育てたと書いてありました。
ということは、二宮が家路のように他の者にも遠藤平吉を付与出来ていたとしたら、犯人の可能性がある奴はとんでもなく増えるぞ。
そうなんです。しかし、出来損ないというか、個人差があるようですね。我々一人一人に個性があるように、遠藤平吉にも個性がある。その結果、より家路さんの持つ遠藤平吉に似た考え方や理念を持つ人物が生まれた。
それがつまり二宮ってわけか?
その通りです。
そんな二宮だからこそ、人格の付与も当然考える。
そうなると、しぼり込みが難しくなるんじゃないか?皆可能性がある。
そこなんです。
だからこそ徹底的に聴取が必要だったんです。
なるほどな。それで、少しは絞り込めたのか?
はい。少しですが。
まずは、ここの従業員です。殆どが学生です。聴取を取った限りでは可能性が無いとは言いきれませんが、それは大学に行っていたという裏が取れればいいでしょう。それに、シフトが無い日に、わざわざ勤め先に来ますか?ちなみにここまでの移動距離、通勤時間を考えに入れると、聴取を取れた子達は20~30分程かかります。車を持っていれば別ですが、誰も持っていませんでしたし、わざわざ休日に来るような立地ではないんです。今日聴取を取れなかった子達もそのくらいの移動時間はあるようです。
しかし、店長の鈴木だけは違います。私用で抜けていることがまず怪しい。明日にでも聞いてみないと分かりませんがね。
そして、
続けざまに話す後藤に、山下はストップをかける。
とりあえず、聴取を取れなかった店長を含めた従業員3名は、明日以降聴取を取らなければ分からないんだな?
そうです。そして、聴取を取った従業員への裏取りが必要です。
整理できた。続けよう。
山下が整理できたところで、再び後藤が話し始める。