表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/357

第85話 『ドライゼ銃完成せり。大砲の鋳造幾分か定まれども完全に非ず。儀右衛門、蒸気機関の製造に本格着手せり』(1847/11/5) 

 弘化四年九月二十八日(1847/11/5)  玖島(くしま)城下 <次郎左衛門> 


「なあ次郎、思うっちゃけどさ……」


「何なん?」


 信之介の問いに俺は答える。


「今、いろんな人の来よるやろ、大村に」


「うん」


「いや、そいは良かっちゃ(それは良い)けどさ、おいたちがやろうってしよっとは(俺たちがやろうとしてるのは)さ、戦争んならんごと(戦争にならないように)、ペリーに負けんごと(負けないように)ってやつやろ?」


「おお、そうよ。だけん(だから)金ば稼いで、いろんな本ば翻訳して、優秀な人ば育つっために、学校も作ったっちゃろうが」


「いや、そいは良かとよ。たぶん、みんな賛成するやろうけど」


 そういって信之介は一之進、お里を見る。おイネも、入れた。けっこう天涯孤独っぽい感じだったし、秘密を明かしても大丈夫そうだったから、教えたんだ。


「じゃあ何なん?」


「いや、歴史上の人物よ。今んとこけっこう歴史の教科書にでてるのが、長英さん。そいから秋帆先生。教科書はどうかわからんけど、ちょっと歴史好きな人なら知っとる」


「うん」


「そいから、儀右衛門さん(田中久重)。あの人は佐賀藩でかなり発明するよ」


「うん。要点を言って」


「だから、いろんな人ば呼ぶとは良かけど、その人が来たことで知り合わなかった人、影響を受けなかった人を、歴史の分岐点から除外して、その結果どうなるか、考えんと」


「うん、わかっとる」


「今でも相~当、変わっとると思うぞ」


「そがん言うたっちゃしょんなかやっか!(そんな事言っても仕方ねえじゃねえか)一応……考えとるよ、ちゃあんと」


「どがん?(どう?)」


 信之介の追及がすごい。圧がすごい。


「まず、秋帆先生やけど、本当なら今(ろう)屋。影響を与えるのは皆無よね。牢から出るのもペリーが来てからやから……」


 そう言って俺は、今のおもだった人の与える影響の変化を、分析しながら信之介に言った。



 


 ・高島秋帆……1853年に釈放。その後幕府の下で砲術訓練の指導に尽力するけど、弟子の英龍さんや小曽根信淳がいるから、そこまでいなくなっても影響はない。


 大村藩で頑張って!


 ・高野長英……史実では現在逃亡中。影響なし。……二宮敬作とはシーボルトの門下生で同門。頑張って!


 ・二宮敬作と石井宗謙……二宮敬作は長崎で開業するのが早まっただけ? 石井宗謙の娘、高子は生まれないから……一之進、頑張れ!


 ・田中久重……現状ではこの人が一番かな。佐賀藩の精錬方には別の人間がなって、蒸気機関・蒸気船・蒸気機関車を大村で作るだろう。

 

 あと造船所もそうだが、諸々佐賀藩の近代化を遅らせる要因に、なるかも……しれない。





「これくらいだろ? 今のところは大きな影響は佐賀藩くらいだから、お隣だから、まあ何とかならんかな?」


「まあ、今後はいろんな影響を考えて、その後にどうフォローするかも考えて、招聘(しょうへい)しないといけないぞ」


「「「だね」」」


 信之介の言葉に全員が同意する。


「あ、うん。わかった」


 いや、なんか俺だけ悪者? 違うやろ……。





 ■大砲鋳造方


 これまでの試射で、砲身の破裂は砲身そのものに生じた「巣(鋳物にできる気泡の孔)」が原因であり、それにより強度が落ちた事や、水車動力を用いた砲身の穿孔(せんこう)が不均一であったことが判明している。


 気泡による強度の不均一と、炭素含有の不均一に関しては一定の安定をみた。

 

 完成している4門の36lb(ポンド)鋳造砲に関しても試射を行い、装薬量を増やしても破裂しない事が判明した。


 ただし、8lb砲での耐えうる炸薬量が4.13kgであったのに対し、36lb砲として約4.5倍の18.6kgの装薬量に耐え得た訳ではない。威力は増すが純粋に砲の強度が正比例していない。


 おおよそ性能の安定の目処がついてきたが、蒸気動力の安定供給と、さらなる改善を要す。


「あとは、繰り返すだけですな」


「はい。儀右衛門さん、有難うございます」


「いえ、信之介様。それがしが来た時には、既にほぼできあがっておりました。多少の工夫をしただけにございます」


「それが大事なのです。それで変わってくる」


 信之介と田中儀右衛門久重は、さらなる高みを目指していた。



 


 ■小銃製造方


「先生! ついに完成ですね!」


 いつしか田中久重の周りには、手先の器用な者や工作好きな者が集まり、試行錯誤しながらも、新しい製品を生み出そうと切磋琢磨(せっさたくま)していたのだ。


 次郎のアイデアのもとで、信之介が雷酸水銀をつくって量産化に成功し、小銃の改良と開発は、久重が行っている。

 

 威力不足であった拳銃形態のものに改良を加え、ライフル銃として完成させた。


 ドライゼ銃はその構造上、銃を立てて弾を装填(そうてん)する必要がない。


 その結果これまでの戦列歩兵戦術を駆逐し、小隊による散兵戦術を可能にしたのだ。日本中がまだ、管打ち式のゲベール銃を最先端と考えていた頃の、快挙である。



 

 

 ■蒸気機関


 ドライゼ銃の完成を受けて、久重は本格的に蒸気機関の製造(すでに発明されているので)に取りかかった。


 まったく大村藩には血湧き肉躍るものが山ほどある。久重はそう思わずにはいられなかったのだ。



 


『G.J.Verdam“Gronden der toegespaste Werktuigkunst ”Groningen.1828-1837.』


(ヘルダム『応用機械学の基礎』1828~1837年 フローニンゲン)



 


 蒸気機関は必須である。


 次郎は最初にヒュゲーニンの反射炉に関する書籍を翻訳し、まずはその素地となる文献はないかと探したのだ。そして、同時に翻訳作業に入った(お里&宗謙&長英にお願いした)。


 技術的な細かい点は先任技術者である久重に任せるとして、その素地を作っておきたかった。

 

 信之介もできあがった訳本を一読してはいたが、どちらかというと図面まであったなら、やはり久重の領分である。




『H.Huijgens“Handleiding tot de Kennis van het Scheeps-Stoomwerktuig ”Amsterdam, 1847.』


(ホイヘンス『船舶蒸気機関説案内』1847年 アムステルダム)





 次郎は今年出版されたこの本も注文した。


 大村藩の(らん)書購入額は、それこそ天文学的数字だろう。蒸気機関の後は蒸気船、そして蒸気機関車。その他数え切れないほどの量である。





 ■医学方


「ああ、これは静叔先生。いかがなされたのですか? おや、そちらの方はお弟子さんで?」


 一之進は軽やかに聞いた。


「先生、彼は弟弟子の村田蔵六と申します。大坂の適塾から私の元に、なんせ長崎ですからな。もっと医学を蘭学をと、遊学に来たのでございます」


「へえ~」


「そこで私のしくじりの話をしましたら、ぜひに自分も大村にと言い出しまして、連れてきた次第にございます」


「なるほど。それで、先生のしくじりとは?」


「それが……大変申し上げにくい事なんですが、痘瘡(とうそう)の種痘を、種を殺してしまい……恥ずかしながら、今一度分けて貰えぬかと、参った次第にて……面目次第もございませぬ」


「ああ、その件ですか。心配ありません。こちらで用意しているものに余分がありますゆえ、お分けいたします」


 一之進は責めない。確かに失態ではあるが、だからといって責めたところで解決はしないからだ。


「誠に、かたじけない」


 奥山静叔は深々と頭をさげた。


「先生、止めてください。さあ、頭をあげて、ああそうだ。そこの、蔵六さん、でいいのかな?」


「はい。村田蔵六と申します」


「君は……確か、医学もそうだけど、兵学や舎密(せいみ)学(化学)にも、関心があるんじゃないかい?」


 心の中を見抜かれた蔵六は、返事に困っていたが、一之進は続けた。事実、語学はもちろん医学にも秀でていた蔵六は、このころはそれ以外にも知識の幅を広げていたのだ。


「じゃあ、ここはもちろんいつでもいいけど、精煉(せいれん)方を見た方がいいかもしれないね。次郎には……いや、ごほん。御家老様には私から言っておくよ。静叔先生、構いませんか?」


「ええ、もちろんです」


 村田蔵六の大村見聞記が始まった。



 


 次回 第86話 (仮)『コカインペーストからの局所麻酔薬コカイン製造工場』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ドライゼ銃の国産に成功したのか イギリス軍ですらまだブラウンベス小銃(アメリカ独立戦争の頃から英陸軍アメリカ独立軍双方で使用)を改良したものが現役なのにw >漫画神の曽祖父 適塾出身な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ