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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第1章 幸せな出会い
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08 いつもの光景



「おはよ、今日も元気ねえ。結局ブレザー着てないじゃないの」

「今日はあったかいから!」

「でも、最低気温は5度ぐらいらしいよ? 本当に大丈夫?」



 次の日、学校に行けばいつも通り、葵と優は私に挨拶を返してくれた。二人に寒いんだったらブレザー着なさい、と言われたばかりだったが機嫌もよかったこともあってきて来なかった。どうせ天気予報何てあてにならないと、この間晴れますとか言ったくせに土砂降りになった天気予報を恨んでいる。だから、優の最低気温が……という話は聞いているようで、聞き流した。

 二人は、私に相変わらずだなあなんて顔を向けている。



「それで?海沢さんとはあれからどうだったの?連絡きた?」

「うーん、それが連絡先登録してくれていないみたいで。恥ずかしいのかも」

「……すごく、いいように解釈するのね」



と、呆れたに言う優。


 でも物は考え事だと、ポジティブな気持ちをもって、私は返してやった。まだ、付き合って一日目だし、あっちも動揺しているのだろう。私だって、付き合い始めた日は手をつなぐことすらできないぐらい乙女だから。それに、四葉さんはこれまでに恋人がいたような感じもなかったし、きっと私が四葉さんにとって初めての恋人なんだろう。そう考えると嬉しくなってきて、恋愛経験豊富の自分が教えてあげないとという気になってしまっていた。



「今日もあのカフェ行くの。そして、四葉さんに会いに行く!」

「会えるかどうかも分からないのに?」

「それでも、顔を覚えてもらわなきゃ」

「きっと、店側も迷惑ね」



 二人は口々にそういった。二人が何と言おうと私は決めたことだし、それを曲げるつもりはない。それに、四葉さんだって私に会えるの楽しみにしていると思うから。

 そんな風に一人妄想で舞い上がっていると後ろから「おい」と怒ったような声で声を掛けられた。



「びっくりした。何だ、幸太郎かびっくりさせないでよ」

「びっくり何てさせてないだろう。ったく、お前がフラれたっていうから励ましてやろうって思ったのに」

「えぇ! なんかそれ酷くない?」



 私に声をかけてきたのは、幼馴染のかすみ幸太郎だった。

 幸太郎とは、小さいころからの幼馴染で家もご近所同士。幸太郎のお母さんは私によくしてくれたこともあって、幸太郎とも付き合いが長い。所謂腐れ縁という奴だ。私が困っているといつも声をかけてきてくれるのだが、最近それがなんだか厄介で、あまり快く思わなくなっていた。



「てか、何で私がフラれたって知ってるのよ」

「フッた本人が言ってたから。そういう噂ってすぐに広まるもんだぞ」

「男子の団結力っていう奴?」



 この年になってもやはり、男子は男子、女子は女子で固まってしまって、そこに壁が出来てしまう。小さい頃はそんな壁などなかったのに、年齢が上がるにつれてその意識の壁は大きく高いものになっていった。クラスで何かをやる時だって、女子は男子に「男子がやりなさいよ」というし、男子は女子に「女子ってめんどくさいよな」っていう戦争が起きる。それでも、比較的このクラスの男子と女子は仲が良かった。そのこともあって、このクラスで付き合ったことがある男子はいない。



「男子には男子の事情があるんだよ」

「何よ、それ。女子みたい」

「今、そういうのジェンダー問題になるぞ」



と、幸太郎は取り上げて、私は言い返す言葉が思いつかなかった。


 LGBT問題は今も騒がれているし、全ての人を尊重し、個性を尊重しあえる社会にと政府も言っている。でも、実際のところ、まだまだ生きづらい世の中だし、第一LGBT問題に加え、奇病に対する差別もある。



(でも、奇病はここ最近出てきたものだしよくわからないことも多いんだよね)



 つい最近問題として挙がってきたこともあって、教科書にはその情報も少ない。どんなふうに対処しているのだとか、どういう症状があるのだとかもよく分からない。実際、病院でそのような患者さんに出会ったことがないため、現実味がなかった。テレビでは、どこにでもいます。と言っていたけれど、ほんとかどうかも怪しい。



「にしても、お前、やたら元気そうだな。いつも、フラれた次の日は世界の終わりみたいな顔してるのに」

「ふふーん、いいことあったんだもん」

「いいこと?」

「幸太郎には教えないよ。子供な幸太郎には分からないことだもん」



 そう言ってやれば、幸太郎は顔を真っ赤にして「もう一回言ってみろ」と怒鳴ってきた。私はそれを聞き流して、葵と優の方を見る。二人は私たちの会話を聞いていて「幼馴染って、ほんと仲いいね」なんて笑っていた。別に仲がいいわけじゃないんだけど、と幸太郎の方を見れば、頬をかいていた。最近幸太郎のこともよく分からない。おせっかいは、昔からなんだけど、前よりも私にからんでくるようになった。周りの男子の視線も何だか違うようだし。

 考えても答えが出なかったため、しっし、と私は幸太郎を追い払う。幸太郎は低くうなりながら「あっそ」と踵を返していってしまった。

 今の私には、幸太郎なんかよりももっと素敵な人がいるから、かまっている暇はないと、なりだしたチャイムを遠くで聞きながら私は四葉さんのことを思い浮かべていた。




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