表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第4章 幸せな未来
59/62

13 変われたから



 四葉さんに出会って私は変わった。


 初めこそ、下心あってただ「格好いい」という理由で交際を迫った。それを、四葉さんは受け入れてくれた。あの時、少し嫌そうな顔をしていたのは後になって気がついた。付き合い始めた当時の私は、周りのことが見えていなかったから。四葉さんの優しさに甘えて、愛されている私、幸せと酔っていた。本当に恥ずかしい話だと思う。そうして、幸太郎に心配されて、葵や優にも迷惑かけた。私の性格を知っている三人だからこそ、それはちょっとどうなの? と問いかけてくれていたのだ。それに気付けなかった。

 四葉さんとやりとりをしていくうちに、四葉さんの好きなものや苦手なことを知れた。田代店長とも仲良くなった。大人と話すのは苦手だったけれど、話してみたら意外と自分の言葉を理解して貰えると言うことが分かった。お母さんには話が通じないと避けていたけれど、ここで勇気を貰ったから話そうとも思えた。

 奇病のカミングアウト、それから四葉さんの病状悪化。畳みかけるように次から次へとアクシデントが起った。昔の私ならもっと取り乱していただろう。でも、今の私は違った。



「今日は、四葉さんに伝えるんだ。これからどうしていくかって。一人で考えないで、一緒に考えようって」



 制服のまま病院に向かった。帰っている暇はないと思ったからだ。やっと固まった覚悟を四葉さんに伝えようと思った。

 そんなことを思いながら走っていると、橋の上でふらふらとしている四葉さんが見えた。退院した、にしてはおぼつかなすぎる足取りに不安になり声をかけた。でも、四葉さんは振返らず橋の下をじっと見つめていた。

まさか、と直感的に動いていた。

 あと一歩の所で落ちそうだった四葉さんを何とか引っ張ってこちらへと戻す。



(生きてる……よかった)



 私は四葉さんを抱きしめた。四葉さんは数秒間動かなかったが、譫言のように語り出したのだ。



「幸、僕さ……このまま、今の幸せを抱いて死ねたら、すっごく幸せだと思ったんだ。でも、落ちるって分かった瞬間、ちょっと怖くなっちゃって。可笑しいよな……本当は、あの時、家族といっしょに死ぬことが出来ればって思ってたんだ。ずっと、ずっと」



 いつもは弱いところを見せない四葉さんの弱音に、私は耳を傾けていた。そして、離さないと、ここにいるよと伝えるために抱きしめ続けた。



「……ずっと、自分が生き残った意味を探してた。周りがどんどん不幸になっていくのに、僕は優しい人達に囲まれてた。僕を可哀相だって慰めてくれた。でも、そんな慰めがちっとも嬉しくなかったんだ。幸せにしないでって、そう叫びたかった……皆の分まで生きてって、そう言われるのが辛かったんだと思う。周りの不幸から目をそらして、自分だけ幸せになるのが許せなかったんだと思う。でも、結局僕は……幸せになるのが怖かったんだ」



 四葉さんはそう言うと、優しく私を抱き返してくれた。

 温かいのに冷たい。そんな感じがした。

 四葉さんが抱えてきたものは、ほんの数年のものじゃなくて、家族を失ってから二十歳になるまで、今もずっと染みついているものだと思った。

 奇病が発症する理由。それに当てはまっているとも思った。

 どれだけ苦しかっただろうか、どれだけ人に理解して貰いたかっただろうか。私では、四葉さんの孤独を、苦しみを全て理解することは出来なかった。でもこうして、受け止めることは出来ると。



(苦しいのは分かる、痛いのも分かる。でも、私を置いていかないで)



 一人幸せになって逃げようなんて許せなかった。本当はそんなこと言っちゃ駄目なんだろうけど、どうしても許せなかったのだ。

 二人で考えていきたい。どんな選択が一番ベストで、幸せか。それは、きっと一つじゃないと思う。



「僕、十分幸せなんだよ。幸」

「なら……」

「うん?」

「勝手に死のうとしないでよ。四葉さんが今言ったのって、自分が楽になる方法じゃん。幸せだって言ってくれるなら、私に幸せにして貰ったって言うなら、今度は私のこと幸せにしてよ!」



 自分勝手な要求だ。分かっている。でも、心の底から出たその言葉は、無意識に出た手に乗せられて、四葉さんの頬を叩いていた。

 私は、ボロボロと涙腺の決壊した目から大粒の涙をこぼす。視界がぐちゃぐちゃして四葉さんの顔がよく分からない。叩いたこと怒ってるのかも知れないし、驚いているかも知れない。でも、私はそんなこと気にならなかった。



「一人で決めないで、死なないで。話して、話してよ。私、そんなに頼りなかった? 私、四葉の恋人じゃなかった? ねえ、四葉!」

「幸……」



 四葉はそっと私の頬に手を当てた。ゆっくりと上がってきた細い指は私の涙を拭う。



「ごめん、泣かないで幸……死のうとしてたわけじゃないよ。そう思っていたのは事実だけど、ただ落ちそうになって」

「本当に?」

「本当。僕が幸に嘘つくわけないじゃん」



と、四葉さんは笑っていた。すっかり痩せてしまった笑顔だったが、私を安心させるための笑顔だと、付き合い始めたときの事を思い出した。懐かしい。今も変わらないんだと。


 四葉さんは自分の額を私の額にくっつけて目を閉じた。そして、言い聞かせるように、懺悔するように言った。



「ごめんね、幸。僕だけ楽になろうとしていた。幸に貰った幸せを抱いて死ねたら、それはきっと一番幸せなんだろうなって思った。でも多分、僕は、弱っていく姿を幸に見られたくなかったんだと思う。ずるいよね」

「ずるい。勝手に決めないで。私も、覚悟を決めてきたから」

「覚悟?」



 四葉さんは聞き返した。


 そうだ、覚悟。


 私は顔を上げて涙を拭った。まだ霞んでいる視界の中で、不安そうな四葉さんの顔を捉える。そんな顔しないで欲しい。私はずっと、貴方だけを見ているから。そう四葉さんに伝えるように私は言葉を絞り出した。



「覚悟。四葉さんと最後まで向き合って幸せになる覚悟」



 私が出した答えは、未来は、私にとっては幸せな選択だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ