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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第4章 幸せな未来
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08 二人の世界



 まるで二人きりの世界にいるようだった。


 薄暗い海の底にいるような、こぽこぽと泡が抜けていくような音を耳で聞きながら、私は目の前の大きな水槽を見つめていた。

 自由に動き回る色鮮やかな、大小さまざまなお魚たち。お魚はきっと何も考えずに泳げているんだろうなと羨ましくなった。

 自分たちが小さい水槽に閉じ込められていることも知らずに、自由であるかのように泳ぐお魚は、幸せなのだろうか、とも。



(四葉さん楽しそう)



 前のデートと同じように、私よりも先に来て待ち合わせ場所で待っていてくれた四葉さんは、恋人のかがみだと思った。

 この日のために揃えた四つ葉のクローバー春コーデを披露すれば、四葉さんは、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに笑ってくれて、一人滑ったみたいにならなくて本当に良かったと思う。

 そうして、驚いたのは四葉さんから「さん付けじゃなくて、呼び捨てにしてほしい」といってきたことだ。まさか、そんなことを言われると思っていなかった為、驚いたが私は、四葉さんが望むならと、そう呼ぶことにした。何でさんを付けていたかといえば、四葉さんは私よりも年上で、大人の人っていう感じがしたからだ。

 私が、「四葉」といえば、四葉さんは恥ずかしそうに笑っていた。私も初めて恋人に苗字から名前呼びに変わった時はこんな風だったなあと懐かしくも思った。でも、過去は過去。

 今は、四葉さんとの思い出を作らないと、と私は張り切った。何となくだけど、このデートが終わったらしばらく四葉さんに会えないような気がしたからだ。私も受験があるし、お母さんと話し合わないと、とも思った。あの後色々考えて、自分なりに答えを作ったつもりだった。親とのかかわり方、なんて教科書に載っていないからこれが正解か分からない。でも、私は行きたい大学や、これまでのことをお母さんとしっかり話さないといけないと思った。けじめだし、過去の私とサヨナラするためにはこれが一番だと思ったのだ。



(ううん、今はそんなこと考えなくていいの。今は、四葉さんとの時間を大切にしなきゃ)



 私は自分の両頬をたたく。

 余計なことをあれこれ考えるのは良くない癖だった。一つのこともろくにできないのに、複数のことがいっぺんにできるはずなかったのだ。容量が悪いと言われれば、全くその通りで言い返すこともできない。社会に出てから大変だろうな、と自分の将来のことも気になってしまう。



「幸、どうかした?」

「ううん、何でもない! さ、次はどこに行こうかなあ」

「そうだね、お土産コーナーにでも行く?」

「いい! 思い出の品買う!」



 私が考え事をしていることに気付いたのか、四葉さんが私の顔を除いた。そんなに顔に出ていただろうかと思いながら、私は四葉さんの方を見た。四葉さんは変わらぬ笑顔で私を見ていてくれて、何だかほっとした。症状が出て苦しんでいないかってすごく心配だったから。

 そうして私たちはお土産コーナーに移動する。お土産コーナーは人気だと、口コミに書いてあったため覚悟してきたが、想像を絶するほど人がいた。波に逆らって歩くのは人の迷惑になると一目でわかった。だから、離れないようにしようと四葉さんの手を握る。



「えっと、幸?」

「い、嫌だったらごめんなさい。でも、こうしたらはぐれないかなあって思って」



 あはは、とから笑いをすれば四葉さんは少し残念そうにしながら「そうだね」と握り返してくれた。もしかしたら、そういう理由じゃなくてただつなぎたいから、つないだ、といってほしかったのかもしれないと思った。そこまで気が回せなくてごめんなさいと心の中で謝りながら、私たちは店内を回ることにした。

 定番の限定クッキーから、魚やペンギンの形をとった練り菓子、等身大サイズのオオサンショウウオのぬいぐるみなど、どれもこれも欲しくなってしまほど目を惹かれた。今日のために、お小遣いをためてきたが、それはすぐに消し飛んでしまいそうだとも思う。

 そうやって、あれもいい、これもいい、と思いながら歩いていると、私は四葉さんの手が離れたときとあるキーホルダーが目に留まった。四種類のクラゲのぬいぐるみキーホルダーだ。色は、ピンク、青、黄色、緑の四色でその中でも黄色と緑に目がいった。緑は四葉さん、黄色は私、という風に見えたのだ。私は迷わずそれを手に取って、四葉さんを探してこれにしようと提案した。ペアルック。ダサいかもしれないけど、と思いつつの提案だったが、四葉さんは嬉しそうに「それいいね」といってくれた。そうして、会計は四葉さんがすませて、外でソフトクリームを食べることになった。並んで同じものを食べているだけなのに、今まで食べたソフトクリームの中で一番美味しかった。



「幸、今日はありがとう」

「私の方が、お礼言いたいのに、それはずるいと思う!」

「何で?」



 そんなことを四葉さんが聞いてきたので、私は頬を膨らます。



「だって、デートに誘ってくれたのは四葉で、四葉が私を楽しませてくれたんじゃん」

「僕は、幸といられるだけで幸せだよ」

「そういうのがずるいの。でも、本当に付き合ってくれてありがとう。私の恋人になって、隣にいてくれてありがとう。私、今とっても幸せ」



 幸せなのは本当。


 一杯、一杯幸せをくれた。私はそれまでの感謝を四葉さんに伝えるために言う。四葉さんも笑って、返してくれようとした。そうして、口を開いた時、四葉さんの身体がぐらりと横に傾く。



「幸、僕も――――」



 まるで、個途切れたように倒れた四葉さんのもとに駆け寄る。心臓は動いているけど意識がないように思えた。私はただその場で叫ぶことしかできなかった。



「四葉、四葉さん!」



 周りの人が私たちの様子に気付いて駆けつけてきてくれ、救急車が到着したのはすぐだった。その間、私は死にそうな思いで叫び続けていた。




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