02 接客
「席、案内しますね」
田代店長はいつもより丁寧に接客していた。
白い杖をもってあたりをきょろきょろと見渡している女性。あの杖には見覚えがあり、目が不自由な人だとすぐにわかった。
女性は白い杖と田代店長の優しい声を頼りに席に案内されると、慎重にその席に腰を下ろす。
付き添いの人もおらず、どうやってメニューを見るのだろうと私は気になってしまい食い入るように見てしまった。メニュー表を持ったが、やはり見えないのか、女性は田代店長にお勧めのメニューをと頼んでふぅ、と息を吐いた。
「愛島ちゃん、申し訳ないんだけど、手伝ってくれるかな」
「はい、喜んで」
田代店長一人じゃやっぱり荷が重いだろうと、私は任されたことを嬉しく思いながら、田代店長の手伝いをした。お勧めのメニューはやっぱりシフォンケーキで、持ちやすいマグカップに紅茶を淹れていた。私はそれを持っていけるようにトレーに乗せ、握りやすいフォークを選ぶ。
「お待たせしました。こ、こちらが当店お勧めのシフォンケーキと、ぶ、ブレンドティーです」
「あら、かわいらしい声。先ほどの店員さんとは違うのね」
「は、はい。違います。大きな声出してすみません」
「気にしなくていいのよ。持ってきてくれてありがとう」
と、女性は微笑んだ。閉じている目もやんわりと優しく曲がって、顔全体で喜びを表現しているようだった。きれいな人だと思わず見惚れてしまっていた。
「ねえ、可愛い店員さん。よければ、お話でもしない?」
「お、お話ですか?」
女性はこくりと頷いた。
私は、店員さんでもないし……とおどおどしていれば、田代店長が私の背中をやさしくたたいた。
「いいじゃないか、愛島ちゃん。いい経験になると思うよ」
「で、でも、私……」
「何事も経験!」
そう言って、田代店長は不格好なウィンクをする。私は、そんな田代店長に押されて、失礼します。と、女性の向かい側に座った。
女性は、手さぐりにフォークを探しており、私はスッと彼女の手にフォークの柄の部分を当てた。
「ありがとう」
「えっ、何で私がやったと思ったんですか?」
「ふふ、そうね。私、見えないわけじゃないのよ」
と、女性は言った。一体どういうことだろうと思っていれば、女性は笑顔を絶やさないまま、私にこう言う。
「店員さん、奇病ってご存じかしら」
「え、ええ、まあ」
その単語が出てきたことに驚きつつ、何となくこの後離される内容が理解できたため、私は静かに耳を澄ませた。別に小さい声でもないのだが、四葉さん以外に奇病患者と関わることが出来るかもしれないと思ったからだ。どうやって向き合っていくかなども、参考にできればいいと思った。
決めつけは良くないが、きっと彼女はそういうことなのだろう。
「私ね、実は奇病患者なのよ」
「そうなんですね」
「あら、驚かないのね。以外ね。皆、気味悪がるじゃない」
そう女性は言うとくすくすと笑っていた。おかしいことでも何でもないのにどうして? と思っていれば、女性は、すぐにその理由を話してくれる。
「私ね、奇病が発症して家族に顔を見せるなって言われたの。彼氏にもフラれちゃって、今は優しい弟の世話になっているけど、あの子の負担になりたくないしって一人でいることが多いわ。奇病患者って、そういう孤独を抱えているのよ」
「そ、それを何で私に?」
奇病のカミングアウトなど、勇気がいることだろう。それも、見ず知らずの出会ったばかりの私に何故。そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
「何でかしらね。話を、聞いてほしかったからかしら。ほら、誰にでも話せることじゃないでしょ?でも、話したいのよ。知ってほしいの」
「そうなんですね」
「ええ、それに店員さんなら理解してくれそうだって思ったから」
と、女性は言ってまた微笑んだ。
彼女はただ目が不自由な人にしか見えなかった。四葉さんのように、あまり外側に見えないような奇病なのだろうかと、私は考える。そんな私の様子に気付いてか、女性はクスリと笑う。
「ごめんなさいね。そうね、私は、あんまり表に出ないような奇病だからね。世の中にはもっとつらい奇病を持った人がいるから、私なんかって思っちゃうんだけど」
そう言って、女性は目を見開いた。
私はその女性の瞳を見て思わず息をのんだ。何て美しい瞳だと思ったからだ。
(……ほう、せき?)
女性の瞳は、もはや目というより宝石だった。宝石が人形のように埋め込まれていたのだ。お店の照明を反射してキラキラと輝く宝石、そのものだったのだ。
「驚かせちゃったかしら。一応、見えてはいるんだけど見にくくってね。でも、店員さんがかわいらしい子っていうのはわかったわ」
「そ、それが、貴方の症状何ですか」
「ええ。私実は、自分で言うのもなんだけどお金持ちの家に生まれてね。その、お金持ちっていうのを狙って集まってくる人はいるんだけど、彼氏がそうだったの。もう少しで結婚という時に、酔った勢いで言われちゃったのよ。『お前は金だって。お金持ちだから近づいたって』」
「ひ、酷い」
私は、女性の瞳を見て、その痛々しく語る姿を見て、言葉では言い表しようがない怒りを覚えた。




