14 私にできること
奇病――――そう、四葉さんにカミングアウトされ、私はなんて言葉を返せばいいか分からなかった。もしかしたら、ってそういう想像はあったけれど、そんなことないって頭の片隅に追いやっていたのかもしれない。だからこそ、こうしてカミングアウトされ、信じられないと頭がショートしかけていた。
(四葉さんが奇病持ち?)
四葉さんの真剣な表情を見ていれば、嘘じゃないということはすぐにわかったし、嘘でこんなことを言うような人じゃないこともわかっていた。私にこうして言おうと決断したとき、どれほどの決意をもって決断したか、私では計り知れなかった。それぐらい、私を信頼してくれているんだと、心の底から嬉しく思ったと同時に、私はそれを受け入れられるかとも思った。
最近、あの講和があってから奇病について調べ、奇病の大変さや、手術のしようのなさ、そして奇病患者の孤独や自殺率など様々な問題があり、社会的問題もそれに絡んでいることが分かった。
奇病だとすぐにわかるものから、分からないものまである。そうして、それをカミングアウトして、家族との仲が悪くなった、友人関係が悪くなったいじめられたというケースも少なくはない。
だからこうして、莉奈さんのような従妹ではなく、私のような赤の他人に話すということはどれほど覚悟がいったことか。
「僕の奇病は『幸せ』を感じると、身体に異常が起きるというものなんだ。幸せだなあって感じたときに、身体に痛みが走ったり、酷いときにはいきなり傷が出来たりもする。そんな、科学では説明のつけようがない症状を発症しているんだ。見たくなかったら、見なくていい……これは、さっき出来た傷だ」
四葉さんはそう言って、腕をまくると奇病によってできた傷だとそれを見せてきた。
私は、目をそらしてもいいといわれたが、それを凝視してしまい、思わず顔が引きつってしまった。
まるで、自分を傷つけてできたリストカットのような傷がいくつも手首から第二関節あたりまでつけられており、そのどれも赤くはれて、ぱっくり問われた傷口から赤い肉が見えた。かなり深く切ったことがわかる。その他にも、薄くなっただろうが、針で刺したような跡や、火傷したような跡もあって、普通ではそんなところにそんな傷がつくはずないものがいくつも見られた。どれも痛々しくて見ていられない。
(四葉さんが何を抱えているか分からないけど、自分で自分を傷つけるような真似はしないと思うし……針で刺すとかもしないと思う。これが、本当に奇病の症状によって現れたものなら……)
本当に科学では説明のつかないものだと私は、食い入るように見てしまった。痛い現実から顔を背けることもなくて、ただただ、その奇病の異常性をこの目に焼き付けようとしていた。
「……幸?」
「は、はい」
バッと顔を上げれば四葉さんは不安そうに私を見ている。私を心配しているという感じではなく、私に幻滅されたのではないかという自分のことを心配しているような、そんな表情。
それからしばらく見つめあっていれば、四葉さんはスッとまくっていた服を下ろして手をテーブルの下で組んだ。
「これが、僕の奇病の症状。リストカットみたいだって思われるのが嫌で、ずっと長袖長ズボンを着ていたりするんだ。他にも、傷とかあざとかいっぱいあるよ。魅せられないけどね」
「四葉さん……」
私を安心させるためか、にへらっと笑った四葉さんを見て、私は笑うことが出来なかった確かにこんなこと簡単にべらべらと人には喋れないだろう。それこそ、こんなものを見てしまったら、四葉さんが言った通り、リストカットみたいだって、自殺志願者だと思われても仕方がない。
(……幸せを感じると、傷ができる。じゃあ、これまで四葉さんは不幸せに生きてきたってこと?)
少し落ち着いた頭で考えて、答えが出ると、私はもう一度四葉さんの方を見た。さわやかな好青年という感じの顔で、笑顔を見ていると暖かくなって、カッコいいなって思う四葉さん。性格も優しくて、気配りが出来て……そんな人に恋人が出来ないわけがなかったのだ。できたかもしれない、でも作ろうとしなかった。それは、奇病がばれるのが嫌だからという理由もあっただろうが、「幸せ」になってしまいそうで怖かったからじゃないだろうか。
私が初めてしゃべりかけたときも、そんな感じがした。迷惑というよりかは、「僕なんかが?」みたいに一歩引いていた。わざとそう言う風に避けていたというなら。
嬉しいことだ。恋人に一緒にいて幸せだって思ってもらえることは。
でも、四葉さんの場合それは毒でしかない。傷つける刃物でしかなかったのだ。
私と一緒にいて、少しでも幸せだって感じていて、こうなっていたとするなら。自意識過剰かもしれないけど、そう思っていてくれてこうなってしまったというなら、私と付き合い続けたら、四葉さんは……
「四葉さん、私と付き合っていても、大丈夫なんですか?」
「幸?」
私にできることなんて少ないだろうけど、それでも、出来ることがあるとするなら、一つじゃないかと思った。
「私、四葉さんと別れた方がいいですか?」




