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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第3章 幸せな告白
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12 疑問



「ちょっと、幸太郎。そういうの良いから」



 何で、幸太郎が怒っているのか理解できなかった。でも、自分のために怒ってくれているんだろうなって思って、先ほどの言葉を撤回したい気持ちになった。吐いた言葉は口に戻るわけでもない。そう思いながらも、これまで私のことを気にかけてくれた幸太郎に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 それと同時に、恥ずかしくもあった。

 田代店長も、あの女性も、四葉さんも、皆驚いて目を丸くしていたからだ。目立ちたいわけでも、悲劇のヒロインぶりたいわけでもないのに。



「ごめん、きっとそれは勘違いしているよ」

「いーや、勘違いじゃない。だって、お前楽しそうに話してただろ」

「ほんと、幸太郎良いって。絶対私の勘違いだったから。それに、四葉さんにお前って!」



 私は、今にも殴りかかりそうな幸太郎の服を引っ張って、何とか止めたが、それじゃあ、気が済まないというように、幸太郎は四葉さんをにらんでいた。

 四葉さんもどうしたらいいのかわからず、幸太郎を見ることしかできないようだった。



「ちょっと、貴方たち、勘違いしているんじゃない?」



と、そこで口を開いたのは、四葉さんでも田代店長でもなく四葉さんの後ろに立っていたあの女性だった。女性は私と幸太郎がさも失礼な奴だといわんばかりに睨みつけてき、自分の主張は間違っていないというように胸を張っていた。その威圧感に、幸太郎も、私も押されてしまう。



(気が強いのって……お母さんみたいで嫌だ)



 お母さんは強い女性って感じがしたけれど、すごく気が強くて口調もそれなりにとがっていた。そういう女性にはなりたくないと思っていて、そういう人が苦手だった。だから、お母さんに怒られているような気分になって、私は幸太郎の服から手を離す。



「勘違いって何ですか。私が、泥棒猫ってことですか」



 私は、それでも自分の主張をやめたら終わりだと思って、喉から言葉を絞り出した。

 震えている身体、拳。自分がどれだけ、怖いのか、大人に対して意見するのを恐れているか実感した。

 私の言葉を受けて、女性は何を頓珍漢なことを言っているんだと、私を見る。



「はあ、勘違いも甚だしいのよ。私は、四葉の恋人じゃないわ。従姉妹よ。それに、こそこそ付きまとうのやめて。堂々としなさい」



と、女性は言った。



「ご、ごめんね。幸。勘違いさせちゃったよね……」

「四葉さん」



 ツンと、私から顔をそらしてしまった女性をぽかんと見ていれば、四葉さんがすかさず彼女について教えてくれた。そして、誤解を解くべく、何で一緒にいたかなど経緯も話してくれた。



「はい、愛島ちゃんオレンジジュース。君も一緒でいいかな」

「あ、あざます」

「ありがとうございます」



 取り敢えず席に座ってもう一度ちゃんと話し合うことになった。

 気を利かせて、田代店長が私と四葉にオレンジジュースを出してくれた。青く透き通るガラスのコップに入れられたオレンジジュースはいつもより色濃く見えた。

 幸太郎は戸惑いながらもそれに口を付け、「今まで飲んだオレンジジュースの中で一番おいしいです」と感想を述べていた。純粋な顔でそう言っていたから、きっとお世辞ではないと思う。

 そうして、私たちは二対二で話し合うことになった。まるで面接だなあと、緊張感が漂う中、四葉さんが改めて説明してくれる。



「彼女は、僕の従妹の莉奈さん。ずっと昔からお世話になっていて、今じゃ兄弟みたいなものだよ。だから、恋人と時価じゃない。浮気なんてしてないよ」

「そ、そうだったんだ……疑ってごめんなさい」

「こっちこそごめん、勘違いさせるようなことしちゃって」

「い、いえ。四葉さんは悪くないので」



 私は、しどろもどろになりながらそう返した。

 四葉さんは優しいから誤ってくれたけど、もとはといえば、勘違いして勝手に尾行した私たちに問題がある。だから、あちらに非はなかった。



(そうよ、四葉さんのこと信頼してあげなかった私の責任じゃない)



 まず疑う前に話を聞くとか、色々方法はあったはずなのだ。でも、それをしなかった私は、まだ四葉さんを信じ切れていないということになる。

 恋人なのに。

 罪の意識からか、何も話せなくなって、それでも何か言葉を紡ごうと努力して、私は疑問に思っていたことを、四葉さんに投げた。



「よ、四葉さんは、びょ、病気なんですか?」

「……っ」



と、そう聞くと、四葉さんはこれまでよりも大きく目を見開いた。


 なぜそれを知っているのか、そういうように。

 私は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、すぐさま今聞いたことは堪えたくないのなら答えなくてもいい。そう言おうとしたが、四葉さんはぎゅっと唇をかんで私を見た。何かを覚悟したような、そんな無言の訴えに私は、息をのんだ。

 いったい何を言われるのだろうかと。

 そう身構えていると、四葉さんではなく、田代店長が口をはさんだ。



「海沢くん、君に覚悟があるなら愛島ちゃんに言ってあげてもいいんじゃないかな。勿論、無理にとは言わないし、話しにくい内容だろうけど。知って貰っておいた方が……今後のためにもなるんじゃないかなって、僕は思うよ」



と、田代店長は言う。


 それを聞いて、莉奈さんは「無理に言う必要なんてないからね」と四葉さんに言っていたが、そこまで言われると気になって仕方がなかった。でも、言いにくい内容、そして、こちらも触れにくい内容なんじゃないかということだけは分かった。

 だから、私も教えて欲しいとは言いだせなかった。

 それからまた沈黙が訪れた。



「……幸、僕がこれから話すこと、周りに言わないで欲しい」

「は、はい」

「それと、どんなことでもあっても……拒絶せずに、受けてもらえると嬉しい」



 そう言った四葉さんの表情は真剣そのものだった。




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