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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第3章 幸せな告白
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11 これからどうしようか

◆◇◆◇◆



「なるほどねえ……聞けば聞くほど、信じがたいが、海沢くんの体調見ていると、信じるしかないよねえ」

「すみません」



 カフェに入れば、バイトを休むといった僕が何故ここにいるのかと田代店長は驚いていたが、莉奈さんと知り合いだったらしく、すぐに話を聞いてくれる体制に入って、僕のことを頭からつま先までじっくりと見た。

 田代さんには悪いことをしたと思っているし、迷惑をかけたと思っている。高卒の僕を雇ってくれたことの感謝の気持ちは、一度たりとも忘れたことはなかった。

 僕は、莉奈さんと田代さんを前に、僕の病状について話した。莉奈さんは、もう一度聞くことになったのだが、真剣に聞いてくれて、時々耐えられないと目を潤ませていた。

 奇病は不治の病だから、進行は遅らせられても治ることはない。ずっと戦い続けなければならないことや、これからどうしていくかなどあれこれ話した。

 でも、一番は幸とは別れず、よければ、ここにおいて欲しいということをしっかりと伝えた。僕の話を親身になって聞いてくれた田代さんは絶えず「決断をしたんだね」と僕の決断を肯定の意味で頷いてくれた。



「はい。もしかしたら、これからも迷惑かけるかもしれません。そしたら、遠慮なく首にしてもらってもいいので」



と、僕が頭を下げれば、数秒間田代さんは黙っていた。


 どっちの意味に持捉えられて、沈黙が長く続いたようにも思える。

 そうして、そんな沈黙が続いた中口を開いたのは田代さんだった。



「頭を上げて、海沢くん」



 僕はそう言われて、少し迷った後ゆっくりと顔を上げた。

 田代さんはしょうがないなあ、と甘やかすような顔で僕を見てくれ、それがどっちの意味か分かって、僕は涙が込み上げてきた。

 大好きなカフェ。優しい店長。大好きなシフォンケーキ。

 この病気を発症してからずっと、嫌なことばかりだった。将来真っ暗で希望が見いだせずにいたとき、雇ってくれたのが田代さんだった。どれだけ嬉しかったか、幸せだったか。その日どれだけ苦しかっただろうか。幸せの痛みをどれだけ感じただろう。

 そんな思いであるお店に、出来るのであればずっと働いていたいと思っているお店から、解雇を言い渡されたら……自分でそれでもいいと言い出しておきながら、未練がたらたらとあった。

 それを、田代さんは見抜いたのだろう。



「海沢くんにいなくなられちゃ困るんだよ。うち、バイトも少ないし、海沢くんのことは重宝してるんだよ。それに、まだシフォンケーキの作り方教えていないしね」



と、田代さんはウィンクをする。


 僕は言葉よりも先に頭を机にこすりつけるように下げていた。



「ありがとうございます、ありがとうございます」



 何度ありがとうと言ったか分からない。僕が言い終わるまで、ずっと田代さんは何も言わないでいてくれた。



「四葉」

「莉奈さん……」

「よかったわね。いい店長で」



 莉奈さんはそう言って僕の背中をなでた。

 田代さんも「海沢くんは笑っていなくちゃ」とか立ち上がってこちら側に来ると、僕の背中をたたいた。暖かいつながりの中で、自分がそこにいると実感できた。

 だが、途端にめまいと、酷い痛みに襲われた。腕や足がじくんと痛んで、血が流れる感覚がした。二人はぎょっと目を剝いて、すぐさま救急箱を、ティッシュをとその傷口に当てた。



「ご、ごめんね。海沢くん」

「田代さんが謝る事じゃないんで。むしろ、それぐらい嬉しかったっていうことなので。本当に」



 僕は、無理して笑った。

 身体に走った痛みは今までに感じたことのないようなものだった。僕は、止血をしてもらい、コップ一杯の水をもらう。



「ありがとうございます。すみません、迷惑かけて」

「迷惑なんてそんな。困った時はお互いさまっていうじゃないか」



 田代さんはそう言って笑った。僕も、笑い返してコップの水を飲み干す。

 すると、カランコロンとベルが鳴った。



「俺ちょっと出てくるよ。海沢くんはここで待っていて」

「あ、でも」

「今日はお休みなんだから、俺に任せて」



と、パタパタと言ってしまう田代さん。


 本来であれば今日はシフトが入っていた為、僕に行かせてくださいと言いたかったが、田代さんに甘えてしまったのだろう。そうして、しばらくすると、田代さんが僕の名前を呼んだ。



「四葉」

「何? 莉奈さん」

「私も行くわ」



 そう、莉奈さんは少しだけ顔を険しくした。誰が来たのか分かったような、僕を心配するというよりかは、また違う別の。そう思ったが、僕は分かったとだけ返して立ち上がった。立ち上がる際に、先ほどできた傷がぱっくりと割れて血がまたあふれ出すようだった。

 僕は、呼ばれた正面入り口に行くと、そこに立っていた二人を見て言葉を失った。ツインテールの女の子と、スポーツ刈りの男の子がそこに立っていた。



「幸、どうしてここに?」

「えっと、四葉さんを探してて。店に入っていくのが見えて……それで」

「あー、そういうこと」



 後ろから刺さる莉奈さんの視線でわかった。きっと、どこからかつけられていたんだろうなと。

 でも、困ったことに、幸は何かを誤解しているようで、今にも泣きだしそうだった。僕は、早く誤解を解かないと大変なことになるだろうと思って、口を開くと、幸の隣、確か幸太郎君だったかが、口を開いた。



「自分の女泣かしてるんじゃねえよ!」




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