10 なんだかストーカーみたい
「何だか、ストーカーみたいだな」
「尾行って言いなさいよ。人聞き悪いわね」
公園で、四葉さんと知らない女性が歩いている現場を目撃してから、私はその二人の後を尾行することにした。幸太郎は帰ればいいのに、「幸に何かあったら大変だから」とまたもヒーロー気取りで私についてきた。有難迷惑とは、このことを言うんだと勉強になった。
(四葉さんに恋人が? もしかして、病気と偽って恋人と会う約束を?)
余計な想像が頭の中を埋め尽くしていく、もしも、そうだったとしたら私はなんて言えばいいだろうか。この泥棒猫! と二人の前に躍り出て何か言えるだろうか。
四葉さんも大人、その隣の女性は四葉さんよりも年上に見えた。四葉さんは優しいから、私と付き合ってくれたかもしれないけど、魅力のない私より、大人の魅力のあるお姉さんの方が好きなのかもしれないと思った。私、胸は小さい自信がある。
「どこまで行くんだよ」
「決定的な証拠を押さえるまで、尾行するわよ。嫌なら帰ってもらって結構」
「そこまで、言ってないだろう」
「アンタがついてくる理由なんてないじゃない」
私はそう言ってやったが、幸太郎はうんともすんとも言わなかった。ただ、心配だからという余計なおせっかいが働いて、私についてくるつもりらしい。どうでもいいけど、ばれるようなことがあってはいけないと思っている。
(でも、顔色悪かったし、嘘ついているっていう感じじゃあ、なかったんだよね)
四葉さんのことはまだよく知らない。よくしてくれる優しいお兄さんということだけがわかっている。あっちが私のことどう思っているかなんて、分からない。分かりたいと思うけど、全部わかりたくないという気持ちもあるから複雑だ。
私はこれまで受け身でいたから、相手が私のことどう思っているか、私が相手のことをどう思っているか考えることはしてこなかったようにも思える。自分勝手だったと思うし、別れられて当然だったと思った。それお、葵も優も知っていたんだろうし、幸太郎も知っていたんだろう。私は無知で子供だった。
四葉さんを尾行していくと、四葉さんはバイトをしているあのカフェの通りへ入っていき、お店の中に入っていった。
「おい、どうするんだよ。中に入ったぞ」
「分かってるわよ。静かにしないと聞こえちゃうじゃない」
お店の中は、正面玄関からじゃよく見えない。だからと言って、この扉を開けると、カランコロンとベルが鳴る。それだけは避けなければならない。尾行していることがばれるのもそうだが、幸太郎と一緒にいるところを見られてもまずいと思ったから。
四葉さんはこの間の一件について、何も聞いてこなかった。もしかしたら、私が他の男の人といても気にしないタイプかもしれない。それか、私も浮気しているんだから自分もしていいかもという気持ちなのかもしれない。四葉さんに限ってどっちもない気がするが、可能性は否定できない。
「いつまで、そうやっているつもりだよ」
「じゃあ、何かいい方法があるっていうの?」
じれったいなあ、という顔で私を見てきた幸太郎はすくっと立ち上がってドアノブに手を掛けた。私が彼を止める前に、幸太郎は店のドアを開けた。
カランコロンと古びたベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
できてきたのは、田代店長だった。
田代店長は私と幸太郎を交互に見て、首をかしげる。そりゃ、私と幸太郎が一緒にいるんだから、吃驚するだろう。もしかしたら、勘違いしているかもしれない。
私は慌てて訂正しようと思ったが、その前に田代店長が中にいる四葉さんの名前を呼んだ。
「おーい、海沢くん。愛島ちゃん来てるよ」
「あ、田代店長っ」
何かを言う間もなく、店の奥の方から四葉さんが出てきた。その後ろには、先ほどの女性がいる。女性は私を見るなり、キッと目を吊り上がらせた。
(やっぱり、来なければよかった)
あっちからすれば私が、泥棒猫かもしれないし、子供の私が、彼女や四葉さんに言えることなどたかが知れていると思った。
そうやって、黙っていれば四葉さんが不安そうな顔をして私に尋ねた。
「幸、どうしてここに?」
「えっと、四葉さんを探してて。店に入っていくのが見えて……それで」
「あー、そういうこと」
と、四葉さんは参ったなあという顔で頭をかいた。
見られちゃいけないところを見られたみたいに見えて、私はじんわりと目頭が熱くなるのが分かった。やっぱり、そういう関係だったんじゃないかって、嫌でもわかってしまう。
(四葉さん、私とは遊びだったのかもしれない)
そう思わざる終えなかった。
そんな私の様子に気付いたのか、四葉さんが何か言おうとしたが、それより先に幸太郎が私の前に出て叫んだ。
「自分の女泣かしてるんじゃねえよ!」