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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第3章 幸せな告白
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08 幼馴染は



 いきなり頭を深く下げて、誠心誠意の……と伝わってくる謝罪をしてきた、幼馴染に私はなんて言葉を掛ければいいのだろうか。



「この間のことって、デートを邪魔したこと?」



 幸太郎は頭を上げずにそう頷いた。

 呆れを一周通り越して、何から突っ込んでいいか分からなかった。

 幸太郎がデートを邪魔した日から、幸太郎との仲は最悪になった。私が一方的に避けていたっていうのもあったけど、あっちから絡んでくる様子もなくなった。そうして、幸太郎も受験のために勉強を始めて、近くにいるのに疎遠になったような感覚になっていた。でも、私にそんなことを気にする余裕なんてなかった。



「ごめん、俺が間違ってた」

「ねえ、取り敢えず頭上げなさいよ。というか、場所変えようよ。こんな道中で」



 あたりを見渡せば野次馬が出来ていた。私たちはその注目の中心にいて、周りに知り合いがいるんじゃないかとヒヤヒヤさえした。

 幸太郎はようやく頭を上げて、私を見た。真剣すぎて怖い顔を見て、私は視線を逸らす。そんな幸太郎の手をつかんで、私は走り出した。野次馬をかき分けて、走っていく。幸太郎はその間何も言わなかった。



「それで、今頃謝罪ってどういうつもり?」



 人通りの多い道を抜けて、近くの公園のベンチに腰掛けた。私はおごるつもりもなかった、百円サイダーを幸太郎に渡して、彼の隣に座る。幸太郎は、缶の淵をなぞって、飲む様子はなかった。



「あの時、お前のこと考えてなかったなあって思って」

「そう」

「小さいころからよく知ってるから、いつもと違う幸の様子が気になって、気づいたらあんなことしてた」

「……おかげでめちゃくちゃだった」



 私は口ではそういったが、あの後四葉さんからの優しいメッセージを受信して、帳消しにとはいかずとも気分は良かった。単純と言われれば、単純で、恋人の一言で嫌なことが吹き飛んでしまう私は安い女なのかもしれない。

 そうして、冷静にあの時のことを思い返してみれば、確かに幸太郎の行動も悪くなかったと思っている。私は今まで同じ学校の人としか付き合ってこなかったから、見たこともない、それも大人と一緒にいたら不審がるに違いない。もしかしたら、危険なことに巻き込まれているかも、とそんな幸太郎の正義感が働いたのも今冷静になったら思う。幸太郎の性格を考えて、幸太郎がああいう場面を見かけたら、そういう行動をとることも。

 あの時の私は、四葉さんのことしか考えていなかった。視野が狭くなっていたのだ。



「本当に悪かった。後から、葵や優に聞いて、お前の彼氏だってわかった」

「は、はあ?」



 葵と優がそんなこと言ったの? 黙っててくれるようにお願いしたのに?

 お願いしたかどうかは記憶におぼろげだったが、それを幸太郎に言うのは違うと思った。私は思わず立ち上がって、幸太郎の方を見た。幸太郎は自分は悪くない、正しいと私を見つめている。



「何であの二人……黙っててって」

「あの二人お前のこと心配していたんだからな」

「心配?」

「いつもより、落ち込み度が激しいとか。いつもの数日付き合ったら終わりとか、そういうんじゃなくて、真剣に向き合おうとしてるってそういってた。馬鹿なお前が、真面目に人を好きになったんじゃないかって、そう」

「し、失礼な。馬鹿って」



 幸太郎は「実際バカだろ」ともう一度繰り返した。今の言葉は、あの二人の言葉じゃなくて、完全に幸太郎の言葉だった。私は、幸太郎の頭を一発グーで殴り、そのはずみに幸太郎の手からサイダーが転がり落ちた。



「いってえ、何すんだよ!」

「馬鹿って言ったから」

「そういうところが子供なんだって言ってるんだよ。もう、高三になるのにツインテールはないだろ」

「気に入ってるのよ」

 お互い一歩も譲らないと、にらみ合えば、馬鹿馬鹿しくなってきて、ぷっと吹き出してしまった。こんな幼稚な喧嘩を小さいころからずっと続けてきたなあと懐かしくなった。             

 少し頭に上っていた血もようやく降りてきて、私の頭はクリアになる。

 葵も優も私のことを真剣に考えてくれていたから、幸太郎に話したのだろう。勝手に話した、秘密をばらした。なんて怒ってしまったが、彼女たちなりの優しさだと気づいた。本当にいい友達だと改めて実感する。それに比べて、私は彼女たちに何かをしてあげられただろうか。



「まあ、そういうことで、お前が本気で人と向き合ってるんだなあって思って、俺は悪かったなあと思っただけだよ」

「それで、謝罪を。ふーん」

「なんだよ」

「別に何でもないって。でも、ありがと、色々整理できたかも」

「俺は、感謝されることなんて何も」



と、幸太郎は耳を真っ赤にしていた。どっちが子供か分からなかった。


 私は、転がったサイダーを拾い上げて幸太郎に渡した。幸太郎はサイダーと私を交互に見る。



「飲んでいいのか?」

「おごり。飲まないと殺す」

「そういうところが、子供なんだよ」



 そういいつつも、幸太郎は嬉しそうに感を空けた。その瞬間ぷしゅうううっと勢いよく中の炭酸がはじけて、私と幸太郎の顔面、服を汚す。



「あははは!」

「はは、ははは!」



 炭酸の甘さでべたべたになりながらも、笑えて来て、私たちは声を上げて笑った。スンと正気に戻るころには、普通にお気に入りの服を汚した幸太郎に対して怒りが湧いてきたけれど、幸太郎はごめんって、と軽い謝罪を繰り返していた。

 そんな風に笑いあい、ふと公園の外に視線を向けると、四葉さんとその隣で楽し気に話す女性に姿が見えた。



「四葉、さん?」

「お、おいあれって」



 幸太郎が私の横で何かを言っていたようだけど、私はそれが聞こえないぐらい、頭が真っ白になった。




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