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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
30/62

14 告白

◆◇◆◇◆



「海沢くん、落ち着いた?」

「はい、ありがとうございます。本当にごめんなさい。昼間の営業時間を……」

「いいんだって、海沢くんの体の方が大事だし。大切な従業員だし」



 お店の入り口にCLAUSEという札を置いてきた田代さんはバックヤードに戻ってくると、僕の体の心配をし、何度も大丈夫かと口にした。ようやく症状は治まったものの、口の中に先ほどの鼻血が逆流する感覚が残っていて、水で口をゆすいでもなかなか取れなかった。

 僕のせいで、一番お客さんが来る時間帯に店を閉じさせてしまって申し訳ないと思った。

 田代さんはいいよ。なんて言ってくれるけど、内心どう思っているのだろうかと、疑ってはいけないと思いつつも、気になってしまった。



(もう、隠さない方がいいのかもしれない)



 こんなことが何度も続いたら、お店の営業にも支障が出てしまう。もしかしたら、最悪解雇という可能性も考えられなくはない。それは自分の責任だと思っているから受け入れるつもりだ。

 そう思って、僕はこぶしを握った。



「何か飲む? お腹もすいたでしょ」



と、田代さんは気を利かせて僕に聞いてきた。


 僕は言うなら今しかないと、田代さんを呼び止める。



「田代さん、話したいことがあるんです」



 そう僕が言うと、田代さんはぴたりと足を止めて僕の方を振り返った。しっかりと、僕の方を見ていつものにこやかな笑顔で「何だい?」と首を傾げた。この人なら、きっと受け止めてくれるだろうと、ゆっくりと口を開く。奇病についてカミングアウトすることは、かなり勇気がいることだった。僕のはあまり表面に出てくるものではなかったけれど、それなりに不安だった。怖かった。

 ぶるぶると手が震えているのが自分でもわかった。それに気づいたのか田代さんは僕の方まで戻ってくると、僕の手を握った。



「大丈夫だよ。ゆっくり、話してごらん」



 田代さんはそう言ってほほ笑んだ。何を言われるのか、あらかた予想がついているのか、田代さんの目にヒア受け止めるから、大丈夫、という言葉が浮かんでいるように見えた。それがどれだけ嬉しかったか、救われたか分からない。



「ごめんなさい」



 口から出たのは謝罪だった。

 それからどうにか、言葉を探してゆっくりとそれを紡いでいく。単語を一つ一つつないだようなとてもじゃない拙いものだったけど、どうにか自分の口から言葉が漏れる。



「僕、ずっと前から言おうと思っていたことがあるんです。こんなタイミングで申し訳ないと思っています」

「うん」

「……僕は、実は奇病もちなんです。あまり、表に症状が出るようなものじゃないですけど、医師にはそう診断されました」



 そこまで言って僕は息を吸った。

 息継ぎを忘れるぐらい、自分で自分の首を絞めるぐらい苦しかった。それでも、どうにか肺にたまった酸素を全部使って吐き出して、それからゆっくりと顔を上げて田代さんを見た。田代さんは先ほどと変わらない笑顔で僕を見つめていた。優しく握っていた手を今度は少しだけ強く握って、そのごつごつとした自分とはまた違う手に暖かさを感じた。



「そうか、辛かったね。よく話してくれたね」



と、田代さんは言って何度も首を縦に振る。


 それだけで、涙があふれてきそうだった。目じりが熱く、まだ鼻にはティッシュが詰められている状態で、ズッと吸えば残った血が逆流してくる。ねたりとした血が喉を通り抜け、先ほど重い言葉を出した喉はすでにカラカラになっていた。



「気持ち悪い、とか思わないんですか?」

「何で?」

「……奇病の患者はよくそういう目で見られますから」

「俺はそんな風に見ないよ。それに、辛くて、辛くてためてきたものが、奇病という形で発症するわけだから、それほどその人に我慢させていたんだなあって思う程度かな。どれくらい辛いかなんて、俺じゃ計り知れないけど」



 田代さんはそういうと目を閉じた。

 こういう人が世界にたくさんいれば、奇病いじめも、もっと言えば奇病の発症さえも抑えられるのではないかと思った。

 それから、僕は、田代さんにすべてを話した。

 奇病を発症したときのこと、そしてこの奇病の症状が出る原因、つけられた奇病の名前について。田代さんはその間、何度も相槌を打ち「そうだったのか」、「気づいてあげられなくてごめんね」と謝ってきた。こっちが勝手に隠していただけなのに、謝罪までされて、本当に申し訳なく思った。



「そうか、君のそれは『幸せ』なのか」

「そうです。先ほどの症状も、『幸せ』によって引き起こされました」

「そうか……そうか」



 田代さんも何ていったらいいか分からないと、宙に意味のない形を描きながらそうして、僕を見た。自分がその立場だったら、と置き換えて考えている田代さんは、きっと僕になんて言葉を掛ければいいかわからなかったんだと思う。下手に分かったといえば、逆に傷つけてしまうかもしれないと思って。何も言わないというのも優しさの一つだった。



「でも、大丈夫なのかい? あの子と付き合っているのに」

「幸には隠すつもりでいます。あの子が飽きるまで、僕はあの子の恋人でいます」

「海沢くん……そう簡単にはいかないんじゃないかなあ」



と、田代さんは眉間にしわを寄せていった。田代さんの言葉の意味が分からず、聞き返そうとしたら、カランコロンとお店のベルが鳴った。



「すみません、今は閉店中でして……て、幸?」

「あ、えっと、ごめんなさい」



 CLAUSEと書いてあるのに誰だろうと思ってきてみれば、そこにいたのは制服姿の幸だった。




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