13 奇病とは
「――で、あるからして、奇病とは」
「ふぁあ……眠」
六時限目のホームルームは、全校一斉の保険講和だった。内容は、奇病について。
奇病は数年前のある日、世界に突如現れた病気の総称であり、感染するものではないということ。感染しないという特徴に加え、治療法がない、発症した患者は他の患者と同じ症状は出ない、唯一無二の病気であることがあげられる。
この眠い時間帯に、眠たくなるような話を聞かされて、私はつまらないから窓の外を眺めていた。オンラインでの講和のため、あちらから、私たちの姿は見えないわけだし、サボってもいいと思ったのだ。でも、たまに巡回してくる先生の目もあって、寝てはいられない。この後に待っている四葉さんとのカフェデートを楽しみに乗り切るしかなかった。
「心に病が、表面上に出てき、それを嫌悪して差別する人が増えてきています。これまでは、心の病と言ったら目に見えない、気づかないものが多かったですが、奇病が広まったことにより、それらは解消されました。しかし、別の問題が浮上しています」
と、丁寧に説明してくれるのは保健室の先生ではなくて、心療内科の先生だった。わざわざ総合病院から来てくれたらしい。
奇病を取り扱えるのは、精神科や心療内科といったところで、奇病専門の科はないようだ。あったとしても、一人一人症状が違うから対処のしようがない。また、治らない不治の病のため、処方箋を出すこともできない。発症したら最後、それと一生向き合っていかなければならないのだと。
スクリーンには、この間炎上したアーティストが映し出された。何でも、盗作疑惑を掛けられ叩かれたとか。だが、実際はそのアーティストをねたんだ人の犯行で、無実だったという。しかし、ネットというのは怖いもので、そういう噂が上がると寄ってたかってたたき出す。そうして、そのアーティストは、炎上を機に奇病を発症したとか。
「ショッキングな写真が出てくるので、見たくない人は目を閉じてください」
そう先生が言った後、映し出されたのは、発火した人のような写真だった。わっと、教室内がざわめきだし、女子も男子も言葉を失っていた。
燃え盛る炎の中心に人影らしきものが見えた。すぐに写真は切り替わったが、その衝撃は頭に張り付いて離れない。
「そのアーティストは、今まで炎上したこともなく、炎上しないようにと嘘偽りなく活動してきたそうです。それもあって、今回の事件で炎上の恐ろしさを知り、自分が燃えている感覚を覚えたそうです」
淡々と語られるそのアーティストの詳細を聞きながら、私は息をのんだ。
アーティストは、炎上の恐ろしさに夜も眠れなくなり、ある日突然奇病を発症した。それは、人体が発火するというもので、情緒が不安定になるとその体から火が出てくるらしい。今は、全身やけどを負い、命からがら生きている状態だが、奇病は治らない不治の病。つぎはいつ発症するか分からないという、今度は違う恐怖に駆られているらしい。このように、アーティストの他にも、奇病を発症した患者の例が挙げられた。どれも、確かに目をそむけたくなるようなものばかりで、奇怪としか言いようがなかった。
そうして、教室の空気はどんよりしたまま終わり、講和に関する感想を書く用紙が配られた。
「幸ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたって、すごく、何か、すごかった」
「すごい詩か言ってないよ。幸」
講和が終わると、葵と優が私に話しかけに来た。二人も顔を青くして、さっき見たものが信じられないと、私に同意を求めてくる。
白紙の用紙を見つつ、私は頷いた。
「そういえば、家の近くで奇病を発症したって人がいて。その人、お金が好きななんだけど、それが度を越えすぎていてね。そしたら、体の一部が金になっちゃったらしくて。本人は喜んでいたけど、間接は曲げられないし、身体も重くなったって……そんな話聞いたわ。実際見ていたけど、マジで金色だった」
と、葵は語った。
私は実際に見たことはなかったが、先ほどの講和でかなり現実味が増して、葵の話も合わさって、奇病って恐ろしいと思った。心の病が引き起こすもの、といったからもしかしたら自分も発症しているのではないかという恐怖にもかられる。思い当たる節はあるし、もしかしたら……なんて考えてしまう。
「幸?」
「あ、うん。何でもないよ。でも怖いねーほんと」
「怖いっていうか、可哀そうでしょ。あんな姿になって」
と、今度は優が言う。
可哀そうなんて言う言葉で片付けられないとは思ったけれど、自分の弱さが引き起こしたものとなると、また話は違うような気がした。でも、少なくとも生きづらさは感じているんだろうなとは思う。
そうこうしているうちに、帰りのホームルームのチャイムが鳴り、葵と優は席に戻っていった。奇病の現状や、患者の症状を見て、他人事じゃないなと、私は思いながらもう一度白紙の容姿に目を落とす。
感想がかけずにいるのは、奇病のことと、四葉さんとの約束で頭がいっぱい、いっぱいだったからだ。そうして、ホームルームも終わり、私は乱暴に鞄に教材を詰めて学校を出た。




