10 既読
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「既読が付いた」
思わずそう、声に出してしまった。
もしかしたら、メッセージを受け取ってくれないかもしれないと少し思っていたからだ。恋愛漫画とかよく読んでいそうな純粋な幸は、ああいう時恋人なら追いかけてくるだろうと思っているかもしれないと、勝手に幸をそういう女の子として見ていた為だった。本当に偏見で申し訳ないと心の中で謝罪をしつつ、既読が付いたことを僕も純粋に喜んだ。
だが、既読が付いたもののメッセージが帰ってくることはなく、テンションが下がってしまった。こんなに、たかがメッセージ一つで一喜一憂しているようじゃ、世の中の恋人関係にある人たちは大変だなあと思った。それとも、そういう線引きはちゃんとしてあるのだろうか。僕にはこれが初めてだからわからない。
そう思いながら、メッセージが返ってこないならお風呂の湯でも沸かしてこようかと立ち上がった時、ピコンと軽快な機械音が鳴り響く。通知欄には幸からの新着メッセージが、と表示されている。僕は急いで戻って消えかかっていたスマホの画面をタップする。
画面には「無事帰れました」、とのメッセージが表示されている。可愛らしい兎のスタンプも添えられており、思わず頬が緩んでしまった。
そんな幸からのメッセージを眺めていると、続けてポンと音を立ててメッセージが送られてきた。
『昼間すみませんでした。不快な思いをされていないでしょうか。私の身勝手な行動で、四葉さんの機嫌を悪くしてしまったのなら、すみません』
と、ずいぶんと丁寧なメッセージで、幸がどんな顔をして送ってきたかがよく分かった。きっと、相当気にしているのだろうなというのが伝わってきて、こっちまで申し訳ない気持ちになってきた。
僕は無意識のうちに手を動かし、幸に大丈夫だよ、というメッセージを送った。
「気にしないで、映画楽しかったよ……と、送信」
文面を見返さずに送ってしまったため、こちらから送ったメッセージと似たような文章になってしまった。これでは、どれだけ今日楽しかったか一人舞い上がっている人になってしまったみたいで恥ずかしい。しかし、既読が付いたため取り消そうにも、取り消せない。
『楽しんでもらえたなら何よりです! 私も楽しかったです!』
そう、幸からはメッセージが返ってきた。律儀にぺこりとお辞儀をした兎が送られてくる。その可愛らしいスタンプを見て、幸の顔が頭に浮かぶ。
「よかった」
ホッと胸をなでおろし、僕は幸が満足してくれていたことに対し満たされていた。本当は、初デートで緊張していて、から回っていたんじゃないかとひやひやしていたが、幸はそんな僕と一緒にいても嫌な顔一つも見せなかった。あれでよかったのかどうかは分からないけれど、幸が満足してくれていたならそれでいい。そう思えた。
『今日の埋め合わせに、またどこか行きませんか?』
と、次々に幸からメッセージが届いた。読むのに必死になって既読を付けたままメッセージが返せずにいた。あたふたしながら、メッセージを打ち込んでいくと、予測変換に出てきた「カフェ」という文字をタップしてしまい、そのまま送信ボタンを押してしまう。
「今度はカフェで」
そんな文章を送ってしまい、冷汗が流れた。毎日日記をスマホでつけているため、カフェの文字はよく使うのだ。カフェ、つまりバイト先のことを日記にはよく書く。これでは、まるでバイト先に来てほしいと言っているようなものじゃないかと思った。幸に誤解されたらどうしようと、間違えたと送ればいいのに、僕より先に幸からのメッセージが届く。
『毎日でも通います! 今度は、月曜日にお邪魔しますね!』
幸のメッセージにはそう書かれていた。
急いで、シフト表を確認し、月曜日に入れていたことがわかり、必然的にカフェデート……といえるか分からないが、成立してしまう。バイト先のことは、第二の我が家だと思っているため、家デートというものになるのだろうか。
幸とのデートに当たり、デートの心得的な本を買いあさって部屋の隅に積まれている。その中に家デートというものがあった。
(でも、家デートってハードル高いよな……)
僕の家に呼ぶわけではないが、恋人がバイト先に来るというこの間とはまた違う緊張感が生まれる。この間までは、店員とお客という関係だったが、今は恋人同士である。だから、いくらバイト中であれ意識してしまいそうだ。
だが、幸は乗り気のようで。楽しみ~とヒヨコが跳ねまわる動くスタンプを送ってきた。腹をくくるしかない。僕は、「分かった、待ってるよ」とメッセージを打ち込んでスマホの電源を落とした。最後におやすみなさい、のメッセージが着たため、無料のスタンプでお休みと打って完全に電源を落とした。




