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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
25/62

09 最悪



 最悪だった。本当に最悪。



「ちょっと離してよ。離してったら」



 ずんずんと私の話も聞かず開けたところまできた幸太郎は、道中会話の一つもなかった。怒っているっていうのは伝わってきたけれど、怒らせるようなことをしていない。怒りたいのはこっちだった。

 幸太郎には何も関係ないし、迷惑もかけていない。

 強引に手を振り払って私は幸太郎を怒りを込めて睨みつけた。すると幸太郎はようやく私の方を見て、私の顔を見るなり目を鋭くさせる。



「ちょっと、あんまりじゃない」

「何が。というか、お前パパ活までしてたのか」

「パパ活じゃないもん。失礼な」



 幸太郎は、四葉さんと私の関係をパパ活だと思い込んでいるようだった。確かに、知り合いと二人きりでお店に並んでいることに、疑問を持つのも無理ない。けれど、それをパパ活だというのもまた違う気がする。

 以前、幸太郎に恋人とデートするときのお金は何処から出てくるんだよ、と言われたことがあった。私がバイトをしていないのを知っているため、疑問に思ったんだろう。だから、今回の現場を見てパパ活をして稼いでいると思ったに違いない。誤解しても無理はないと思った。そんな、危ないことに手を染めている私を救ったヒーロー気取りでいるのだろう。迷惑な話だった。



「じゃあ、何だよ。絶対に知り合いなんかじゃないだろ」

「何でそう決めつけるのよ」

「お前、楽しそうにしてたし」



と、根拠の薄いことをしどろもどろになりながら言う幸太郎。 


 呆れた。根拠もないのにその場の怒りに任せて私を連れ出したというのかと。本当に成長していないと思った。

 でも、私も幸太郎を納得させられるような言い訳が思いつかず、口ごもっていると、幸太郎はそれをチャンスにと追撃をしてくる。



「だって、さっきのお前の顔、前街で見かけたときと同じ顔してたじゃん」

「つけていたの? 最低じゃん」

「違うって、たまたま見かけたに決まってるだろ。俺も、部活で忙しいし。そんなお前を見張るようなことできない」

「部活がなかったらするみたいな言い方しないで」



 私も頭に血が上っていた為、幸太郎の言葉は全て言い訳に聞こえた。お互いの主張が食い違って、論点からずれているのは明白だった。私と幸太郎は性格が合わないから、こうやって子供の時から何度も喧嘩になる。そのたび、幸太郎が折れてくれていたのだが、今回はそんな風にいきそうにない。幸太郎が謝ったのは、幸太郎のお母さんが謝りなさいと言っていたからだ。私は自分の意志では謝れない子、とでも思われているのか、それとも女の子だからと思われているのわからなかったけど、幸太郎のお母さんはかわいそうにね、みたいな顔で私を見てきた。子供の時からそんな風に周りの大人から見られていたせいで、自分は「可愛そうな子」なんだと認識してしまった。だから、そんな可哀そうな私は、周りから愛されるべきだと思っている。今の私を作り上げたのは、周りの大人の責任だ。



「ああ、もう、それはいいって、置いておけよ」

「あんたが言い出したんでしょうが!」

「分かったから、落ち着けって」

「そもそも、幸太郎が落ち着いていたらさっきみたいなことにはならなかったでしょう。四葉さんを置いてくることもなかったし。本当にあの人には申し訳ないことをしたと思ってるの。あんたにも謝ってほしいぐらい」

「だから、その四葉って誰なんだよ」

「誰でもいいでしょ。あんたに関係ない」



 そう言えば、幸太郎はむっと口を尖らしたのち、それまで吊り上がっていた眉を下ろして、傷ついたような顔をする。その顔を見て、私はぎょっと目を向いた。



(どうして、あんたがフラれたみたいな顔してるのよ)



 ただの幼馴染で、おせっかい野郎で。ただそれだけの関係だと思っている。でも、幸太郎は違うというのだろうか。



「俺には関係ないって、関係ある」

「関係ないってば」

「だから、関係あるんだよ!」



と、声を荒げて言う幸太郎。周りはなんだ、なんだ? と私たちの方をちらちらと見てくる。視線が集中していくのを感じて、私は一気に羞恥心にかられる。幸太郎のせいで恥までかいた。



「関係ある理由が言えないなら、私帰らせてもらうから」

「帰るって彼奴の家に?」

「そんなわけないでしょ。今日のお出かけの面目丸つぶれ。家に帰るのよ」

「それなら、俺に家に泊まればいいじゃねえか。そっちの方が、賑やかでいいだろ」

「誰が、高校生にもなってあんたん家に行くもんか! 私のこと、みじめだって思ってる証拠でしょ」

「そういうつもりじゃなくて」

「言い訳とか聞きたくないから。あんたのせいで最悪な一日になった。じゃあね」



 待ってくれ。と後ろから幸太郎の声が聞こえたが、私はそれを無視して家に向かって歩き出した。四葉さんがあそこで待ってくれているとは思わないし、さすがに家に帰ってしまっただろう。恋愛映画で言うなら修羅場だった。

 もうすっかり冬空で、風に吹かれながら身を縮こまれせて私は歩く。一応、謝罪の連絡は入れておいた方がいいとスマホを取り出したが、残念なことに立ち上がるのが遅く、家に帰ってから連絡を入れようと思ってもう一度ポケットに突っ込んだ。




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