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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
24/62

08 状況把握

◆◇◆◇◆



(これはどういう状況か……)



 幸の知り合いらしき少年は、僕をまるで不審者というように睨みつけた。何か誤解されているようで、どうにか誤解を解かなければと思っているのだが、話せるタイミングがなかなか見つからない。



「それで、お前は誰だ?」

「ちょっと、やめなさいよ。幸太郎」

「じゃあ、此奴誰なんだよ」

「し、知り合いよ」

「知り合いと二人きりで食べに行くのかよ。それって、デートじゃないか」

「デートじゃないわよ」



と、幸は否定した。多分、幸にとっても隠したい事実なのだろう。だから、必死に「デートじゃない」、「知り合いだ」と言っているんだと思う。僕も後ろめたさは少しあるから幸に話を合わせようかと思った。


 しかし、幸太郎と言われた少年は頑に幸の話を聞こうとしなかった。凄く疑われているんだろうなというのがわかって、かなり悲しい。でも、幸が今口にしている関係は真っ赤な嘘なので、僕が何かを言えるわけでもない。



「幸の言っていることは、本当なのか? お前は、本当に幸の知り合いなのか?」

「だから、お前っていうのやめなさいって! 四葉さんは年上なんだから」



 幸は必死に僕を庇おうとしていた。頭に血が上っている幸太郎を止めるのはかなり難しいようで、幸の必死の制止もむなしく、幸太郎に突っかかられる。



「それで、どうなんだよ」

「えっと、僕は、そうだね。幸の知り合い、かな?」

「そう、知り合いよ」

「じゃあ、何で疑問形なんだよ」



 嘘を言うのは苦手ということもあって、疑問形になってしまった。それをすかさず幸太郎は、指摘してくる。こうも言われると、何と返せばいいかわからなくなってきた。



(幸太郎くんは、幸の同級生ってことだよな。そりゃ、知らない男性と二人きりでお店に並んでいる姿なんて見たら心配になるよな……)



 僕だったらそう思う。でも、生憎僕には今近くにいる幼馴染はいないし、青春時代、そういう場面に遭遇してこなかった為、完全に理解することは困難だった。

 幸は、嫌そうに幸太郎を睨みつけながら僕の服の裾を握る。



「幸太郎、部活はどうしたのよ」

「今日は朝練だけ。午後からは休み。別にいいだろ。俺がどこにいても」

「確かにそうだけど、邪魔しないで!」

「何で?」

「何でって、私は! 四葉さんと二人きりで来ているの! だから、邪魔しないでって言ってるの!」

「だから、何で二人きりなんだよ」



 二人の討論は続いていた。どちらも一歩も引かない状況で、話が一向に進む気配はなかった。幸太郎の言い分としては「二人きりなのがダメ」と言っているようで、それなら、幸には悪いけど、誤解を一時的に解くために一緒に食事をとればいいんじゃないかと思った。



(別に、生活費に余裕があるわけじゃないんだけど)



 そう思いながらも、背に腹は代えられないということで僕はスッと二人の間に入った。



「僕は、幸さえよければ三人で食べてもいいよ」

「え、えっ、四葉さん」

「えっと、幸太郎君だったかな。僕と幸が二人きりで食べるのがダメっていうなら、一緒にどう? 勿論、代金は僕もちでいいから」



 癖になっている営業スマイルを向ければ、幸太郎はさらに顔をしかめた。幸も僕の提案に驚き、それは嫌だと拒否するように首を横に振っていた。僕としたらこれが一番最適解だと思ったのだが、どうやらこの答えは間違っていたようで、幸太郎は強引に幸の腕を引っ張ってどこかに行ってしまった。僕は一人取り残されてしまう。



「海沢様、二名でお待ちの海沢様はいらっしゃいませんか」



と、店員に呼ばれ自分たちの番が回ってきたことを知る。だが、一緒に食べるはずだった相手はおらず、僕は断りを入れて次のお客さんに順番を譲ってくださいと言って列を外れた。高校生の足に追いつくのは困難だと思い、深入りはしないと決め、僕は自宅に向かって足を進めた。映画を見るという幸のデートプランは達成されたわけだし、初めてのデートが失敗に終わった反面、映画を一緒に見れた幸福感は大きかった。



「……ふう」



 自宅につき、気を張っていたこともあって僕は全身から力が抜けたようにベッドに沈み込んだ。久しぶりに歩いた気がするし、長時間座っていた気がする。そして、何気に恋愛映画を見るのは初めてだった。

 思わず頬が緩み、全身の骨がミシミシっと音を立てた。奇病の症状だ。

 痛みを感じつつも、確かな幸福感はそこにあり、等価交換だとすれば成り立つのじゃないかと思った。そんなことを思いつつ、せっかく連絡先を知っているわけだから、今日のデートが途中で台無しになってしまったことを詫びようと、僕はスマホを手に取った。自分で言うのもなんだが、こういうのは恋人らしいと思う。

 それに、幸が家に着いたかも心配なので、生存確認も含め連絡をとスマホを開く。幸からの連絡は入っておらず、少しだけ心配になる。僕は、幸のかわいらしい小物の写真のアイコンを開いて、幸に連絡をとメッセージを打ち込んだ。



『今日のデートは、楽しかったよ。ちゃんと家に帰れた?』



 そう、送信ボタンを押し、既読が付いたのは約一時間後のことだった。




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