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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
23/62

07 タイミング悪い



(何で、幸太郎がいるのよ!)



 タイミングの悪さは、世界一だと思う。

 前の恋人とのデートにも偶然、本当に偶然にも幸太郎が現れ、私の元恋人が幸太郎と仲が良かったこともあって三人で食べることになったという悲劇のお話がある。その為、幸太郎と私と恋人のデートでのエンカウントにはいい思い出がなさすぎる。警鐘がウゥーン、ウゥーンと鳴っていて、今すぐ幸太郎を突き放さないと、面倒くさいことになると思った。

 でも、気づくのが一歩遅れた。

 私を不思議そうに見ていた幸太郎は、ふと私の後ろにいる四葉さんに視線を向けて、その目を鋭く尖らせたのだ。



「それで、お前は誰だ?」



と、幸太郎は声を低くして、四葉さんに突っかかった。完全に目が昭和のヤンキーのようで恐ろしく、今にも殴りかかりそうだった。四葉さんだけは守らないと、と思いつつ、四葉さんは状況が理解できていないのか、幸太郎のことを私の同級生だと思っているのか、ぽかんと口を開けたまま彼を見つめていた。



(幸太郎は喧嘩とか強いし、握力もゴリラだし!)



 小さいころ、離婚した私のお父さんを不倫した男とか言っていじめてきた子たちを殴り飛ばしていたのを思い出した。彼はヒーロー気取りだったんだろうけど、私は正直放っておいてほしかったし、殴っている幸太郎の方が怖く見えた。今でこそ落ち着いたけど、あの時のことが一気によみがえってきて、身の危険を感じてしまった。そりゃ、小学生の頃よりもはるかに身長が伸びたし、ガタイもよくなったしで、その体から飛び出されるであろうパンチの威力は想像がつかない。四葉さんはどちらかというとやせ方だし、幸太郎のパンチなんて食らったら骨が折れてしまうんじゃないかと思った。



「ちょっと、やめなさいよ。幸太郎」

「じゃあ、此奴誰なんだよ」

「し、知り合いよ」

「知り合いと二人きりで食べに行くのかよ。それって、デートじゃないか」

「デートじゃないわよ」



 心の中で四葉さんに御免と謝りながら、幸太郎を今すぐにでもぶん殴りたい衝動を抑えた。思った通り面倒くさいことになった。



(四葉さんとの初デートが最悪になる!)



 映画の余韻なんてとっくに抜けて、私は叫びたい気持ちでいっぱいになった。



「幸の言っていることは、本当なのか? お前は、本当に幸の知り合いなのか?」

「だから、お前っていうのやめなさいって! 四葉さんは年上なんだから」



 敬語もなっていない、激おこぷんぷん丸の幸太郎を必死になだめる。でも、私なんかの力で止められるはずもなく、幸太郎は、列に並ぶ人たちの目など気にせずに吠えていた。四葉さんはようやく状況が理解できたのか、苦笑いしていて、本当に申し訳なく思った。というか、本当に恥ずかしいし最悪。



(恋人とのデートに乱入してくる幼馴染とか、私は三角関係望んでないのよ!)



 ここで、恋人だというともっと面倒くさいことになるのは目に見えていた。だからこそ「ただの知り合い」ということで話を進めているが、何がそんなに気に食わないのか、幸太郎は食って掛かる。



「それで、どうなんだよ」

「えっと、僕は、そうだね。幸の知り合い、かな?」

「そう、知り合いよ」

「じゃあ、何で疑問形なんだよ」



と、意地悪な質問をしてくる幸太郎。


 いつもはもうちょっと穏やかなのに、どうして今日はそんなに機嫌が悪いのか。顔も怖いし、サッカーの朝練帰りなのか汗くさいし。



「幸太郎、部活はどうしたのよ」

「今日は朝練だけ。午後からは休み。別にいいだろ。俺がどこにいても」

「確かにそうだけど、邪魔しないで!」

「何で?」

「何でって、私は! 四葉さんと二人きりで来ているの! だから、邪魔しないでって言ってるの!」

「だから、何で二人きりなんだよ」



 お母さんは? と言わないところをは、幸太郎のいいところだと思う。私が、お母さんと外食したことなんて一回もないし、家に帰ってきても、ろくに顔を合わせてくれないということを、幼馴染だから知っているのだ。四葉さんは知らないけど。

 なかなかこちらの話を聞き入れてくれない幸太郎に対して、私はもうあきらめようかと思っていた。きっとこの脳筋に何を言っても通じないと。そう思っていると、四葉さんが横からスッと手を上げて口を開いた。



「僕は、幸さえよければ三人で食べてもいいよ」

「え、えっ、四葉さん」

「えっと、幸太郎君だったかな。僕と幸が二人きりで食べるのがダメっていうなら、一緒にどう? 勿論、代金は僕もちでいいから」


 何処まで優しい人なんだ。好き! そう思いながら、本当に申し訳ないことを言わせている自覚があった。それもこれも、幸太郎のせいだと睨み付ければ、幸太郎は何かを考えた後、私の手を引いた。



「ちょ、ちょっと」

「失礼します。矢っ張り、俺は貴方の事を信じられないので」



と、幸太郎はぺこりと頭を下げ、私の話など聞いてくれることもなく歩き出した。




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