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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
21/62

05 今が一番



 この映画を選んで正解だった。

 まるで、私と四葉さんの出会いのように、とあるカフェで出会った男女が恋に落ちて、愛し合う、そんなべたで甘いもストーリーだったが、四葉さんと私に重なる部分があってとても共感できた。四葉さんも真剣に見ていたし、嫌だった、ということはないだろうと安心できた。恋愛映画を見に行くと前に行ったとき、アクション映画の方がいいと元恋人と喧嘩になってそのまま別れたことがあったからだ。それは価値観が違うから仕方がない、ということで収めたが、私を愛してくれていなかったんじゃないかと今になって思う。別に押し付けているわけでもないのに。


 エンドロールが流れ終わると、映画館の照明がぼんやりとつき始め、皆一斉に立ち上がり出口へ向かって歩いていく。通路側にいた四葉さんも立ち上がって「行こうか」とエスコートしてくれる。そんな紳士で優しい四葉さんの姿にときめいてしまっていた。



(過去は過去。今は自分を愛してくれる人がいるんだから、それでいい!)



 愛するより、まず愛されたい。それが幸せだと私は思っている。

 そうして、映画館から出て近くにあった限定のプリクラで写真を撮った。四葉さんは不慣れで、どうしたらいいかとあたふたしていたが、私は手でハートを作ろうと提案すれば、恥ずかしがりながらもやってくれた。そうやって何枚か取れた写真に書き込みを入れて二人分に分けた。



「初デート記念に」

「こんなに、目がでかくなるんだね……」



と、プリクラ初心者の感想を言った四葉さんに思わず笑ってしまった。確かに、プリクラの目の拡大率は異常だと思う。でもそれをいじることだってできるし、美調節をしながら、自分たちを盛っていくのがだいご味だと思う。四葉さんは驚きつつももらったプリクラを大事そうに財布にしまっていた。



「それじゃあ、次はどこに行く? お昼時だし、どこかいいお店あったらそこで食べようか」

「あっ、私行きたいお店があって」



 一一時と飲食店が込み始める時間帯で、いきたいお店はもう行列が出来ているかもしれないと思いつつも、四葉さんの初めてのデートで、ここに行きたい! と考えていたお店があったので、今度は私が四葉さんの手を引いた。四葉さんは、微笑んで黙ってついてきてくれた。



「四葉さんってアレルギーある?」

「ないかな」

「嫌いなものとかは?」

「嫌いなものかあ、考えたことなかったなあ。何でも食べられるよ。何の気分っていうわけでもないし、幸の食べたいものに付き合うよ」



と、満点の解答を返す四葉さん。これまでの元恋人たちと違って、笑顔で肯定してくれるところや、私に合わせてくれるところが大人の男性といった感じで好印象だった。前に、葵や優に「幸は恋人のこと値踏みしすぎ」と怒られたことがあったが、誰だって人のいいところ悪いところに目が行くだろう。外見も重要ポイントだが、中身は外せないだろう。


 そんなことを思いながら、いきたいと思っていた店まで出向けば、すでに行列が出来ていた。店員さんが名簿に名前を書いてくださいと言っており、その名簿に目を通せば、すでに十人は軽く待っているようだった。私たちの番になるのはいつのことやら。

 私は次のお店を探そうかとスマホを取り出すと、四葉さんは「ここで並ぼう」と言ってきた。でも、おなかもすいているし、何より一緒に待たせるのが申し訳なく思った。



「でも、すごく待つんだよ?」

「他の店も同じじゃないかな。なら、ここで順番を待っていた方が早く済むかもしれない」

「そうかもしれないけど……」

「僕は、幸と一緒に並ぶのもいいって思ってるよ」



と、四葉さんは言ってくれた。私の機嫌を取るためなのか、それとも素で出た言葉かは分からなかったけれど、その言葉に心が温かくなる。本当に今までの恋人と比べ物にならないぐらいいい人だと思ってしまう。



「そ、それじゃあ。そうする」

「うん、そうだね。それがいいよ」



 四葉さんはにこりと微笑んだ。笑顔がとてもにあっている人だなあと再度実感すると同時に、その笑顔が今自分だけに向けられているものだと思うと、特別感や優越感に浸れた。

 待つのは嫌いだったけど、四葉さんと待つのは悪くないかもしれないと思った。



「ここのお店ね、美味しいパスタがあって。チーズもおいしくて」



 何とか会話をと、並んでいる間つまらなくなってはいけないと口を開く。この店を選んだのは、いろんな種類のパスタがあって、チーズも豊富で、パンもおいしいからだ。チェーン店だが、私たちの住んでいる地域には一つしかなく、いつもにぎわっていた。たまに開かれる食べ放題も破格の値段で、二人ときたことがある。

 そんな風に会話を続けていると、行列の横を通り過ぎる人の中に知り合いを見つけた。あちらも、私に気付いたようで足を止め、ずんずんとこちらにやってくる。



「幸、お前どうしてここにいるんだ?」

「こ、幸太郎……」



 今会いたくない人ナンバーワンの男、幼馴染の幸太郎は私をじっと見つめると、驚いたように目を丸くしていた。




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