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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
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04 待ち合わせ

◆◇◆◇◆



「大丈夫かな……」



 待ち合わせ時間は十分を過ぎていた。


 たかが十分と思えばそれまでなのだが、莉奈さんのアドバイスを基に、待ち合わせ時間の三十分前に来ていた為、合計四十分待っていることになる。それが嫌とかじゃなくて、幸に何かあったんじゃないかというそっちの不安の方が大きかった。そもそも彼女の家も知らないし、どうやってここまで来るかも聞いていない。電車を確認したところ正常に動いているようだったし、道が渋滞しているという感じでもなかった。だとすると、道中で? と余計な想像をしてしまう。ただ単に、寝坊というだけならいいのだが。


 そう思っていると、遠くからパタパタとせわしそうにこちらに走ってくるツインテールが見えた。いつもの学生服とは違い、完全な私服に、一瞬誰かと思ったけれど、それ紛れもなく幸だった。淡い桜色のワンピースに白いヒール、ワンピースの色と合わせたリボンで髪をまとめ、大人びたというよりかは、さらに幼く見える服装の幸がこちらに走ってくる。小さな身長をごまかす為か、高いヒールの靴を履いているようだったが、それで走ってきているのを見て、靴連れの心配をしてしまう。



「幸!」

「よ、四葉さん遅れて、ごめんなさい」

「大丈夫だった? 心配したんだよ」



 責めることなんて頭になかった。初めてのデートということもあって勝手がわからなかったのもそうだけど、女性には支度が必要だと莉奈さんが言っていたことを思い出して、許容範囲じゃないかと思った。そんなかっかしても仕方がない。

 僕がそういえば、幸は驚いたように目を丸くした。



「お、怒らないの?」

「何で怒るの?」



と、互いの意見が食い違い、僕も幸も首を傾げた。


 きっと幸は遅れたことに対して怒られると思っていたのだろう。だからか、少し怯えたような顔をしていた。もしかしたら、昔付き合っていた人に怒られたのかもしれないと、そんなことが容易に想像できてしまう。ということは、自分は幸の何人目かの男ということを自ら自覚することと同じであり、少し虚しい気もしてきた。でも、自分の幸せよりも、目の前の女の子を幸せにしてあげる方が優先だと、僕はバイト先で培った笑顔で幸の頭をなでる。



「大丈夫だよ。遅刻なんて誰でもあるし、僕はそんなことで怒ったりしないよ?」

「でも、映画の時間が」



 そう幸に言われて、今日のデートプランを思い出した。幸が心配でそれどころじゃなかった為、すっかり忘れていたが、もう少しで映画が始まってしまうのだった。時計を確認すると、後一五分で始まってしまう。歩いて五分、トイレをすませたり、飲み物を買ったりしたらギリギリか。



「幸、移動できる?」

「うん。大丈夫、です」



 幸はハッと我に返ったようにそう返事をした。

 彼女も緊張しているに違いない。そう考えて僕は彼女の手をやさしく握った。幸の手は僕の手で包み込めてしまうほど小さくて暖かかった。



「僕に対して敬語はいらないよ。一応、恋人同士だし、ね?」

「は、はい……うん」



 幸は戸惑いつつも頷いた。僕はそんな幸を見てニコリと頬を上げ彼女の手を引いて歩き出した。幸は走ってもいいといったが、先ほど幸の足元を見ていると、走りにくい、そもそも履きなれていない靴を履いていることぐらいすぐにわかってしまった。だから、無理に走らせるわけにはいかないと、歩幅を合わせている。

 そうして僕たちは、無事に映画館につき、ジュースとポップコーンを買って並んで映画を見ることになった。映画は、今流行の恋愛映画で、有名な俳優が出ているとかで、会場には女性が多くみられた。勿論、僕たちと同じように男女で隣になって座っている人たちもいた。事前にどういう人にお勧めかと、ネタバレの含まれないレビューの中で「恋人と一緒に行ったとき、すごく共感出来て距離が縮まりました」というものを見つけて、本当か、と怪しみつつも、始まった映画は確かに男性でも楽しめる内容だった。女優の演技も迫真で、俳優の演技は、熱が籠っていて、演技だということを忘れるぐらい引き込まれた。目線の動かし方や、指の先まで神経を研ぎ澄ませているんだろうなと、その映画のヒロインに対する愛情が感じられた。それにこたえようとヒロインもその俳優の手を取る。高校生が見るには少し刺激が強いんじゃないかというぐらい甘い内容だったが、幸は食い入るように見ていた。


 でもとてもじゃないが、こんな映画のようなことはできない、そう思ってしまった。もし、幸がこんなことを望んでいるのなら、僕では役不足な気がする。



(もし、本気で好きになったとしたら……きっと、幸を苦しめるんだろうな)



 ズキンと手首が痛み暗闇の中視線を落とせば、そこには一本の線が出来ており、そこからつつぅと血が流れていた。誰かと一緒に映画を見るだけでも幸せを感じるなんて、安い男だと自分でも思う。幸は、映画に集中していた為、音を立てないようティッシュを取り出して、血の流れている右手首に当てがって、僕はエンドロールが流れ始めたスクリーンに目を戻した。




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