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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第2章 幸せな恋人
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03 どうしよう



「この服にしようかな、あっ、これもいいな~」



 鏡の前で一人ファッションショーをしながら、明日のデートに着ていく服を選ぶ。ワンピースかそれともスカートか。新作のコーデにするか、色の組み合わせはおかしくないかと、自問自答しながら選んでいく。四葉さんの好みは何も分からないし、ダサい服を着る子なんて思われたくもない。だからこそ、いつもより慎重に選んでいた。やっぱりデートに行くなら可愛いって褒められたい。その一心だった。



(お母さんが家に帰ってきたのは珍しかったけど、特に会話という会話もできなかったし……)



 お父さんとお母さんだってデートして結婚したはずなのに、お母さんは可愛いよりかっこよくて清楚で、でも毎日しわのないスーツに身を包んでいるわけで。おしゃれなんてしている暇ありませんという感じがプンプン伝わってくる。結婚式の写真も見せてもらっていないから、着飾ったお母さんを見たことがない。多分、オシャレに興味も何もないのだろう。



(少しでも、お母さんに聞こうと思った私がばかだった)



 大人の男性と付き合うことになったから、大人の女性にアドバイスをもらうのが一番だと思った。でも、私の知る限り大人の女性はお母さんしかいない。だから、一瞬お母さんに聞こうと、舞い上がった気持ちのまま話しかけたら、厄介者扱いされてしまった。仕事が立て込んでいてイライラしているのだろうと、声をかけた後に気が付いた。それでも、しっかり睡眠をとっているのか、目の下に隈は見られなかった。若々しく見えるけど、とげとげしい。それがお母さんの印象だ。

 私がどれだけ喋りかけにいこうが、邪魔だというように目も合わせてくれない。今に始まったことじゃないし、これがお父さんと離婚してからずっと続いているから、離婚条件を満たしているとは思えない。



(子供は引き取るから、仕事を続けるために離婚する……って、本当にお母さんらしい)



 今になって思う。お母さんは冷たい人で、普通の家庭を演じているだけの偽善者なんだって。お父さんに家事を押し付けて、自分はやりたい仕事に専念して。家事を分担してくれとお父さんに頼まれたら、離婚しようと言い出して。自分勝手にもほどがあった。その離婚条件は「私を引き取る代わり、仕事を続けることを許可する事」だった。何というかお母さんらしいけど、その条件の一つに家事も育児も離婚を切り出した、お母さんにすべて押し付けるというようになっていたのにも関わらず、お母さんは今の今まで一度も私に何かしてくれることはなかった。忙しいを理由にして、お金だけおいて朝早くに家を出て、夜遅くに帰ってくる。そんな毎日を繰り返している。きっと私には興味ないんだって、分かっていた。

 でも、私は諦められなかったから、お母さんの気を引くために勉強だって努力した。同じ会社には入れれば、きっと見直してもらえるだろうって、褒めてもらえるだろうってそんな淡い期待を抱いていた。でも、お母さんはそれすらも無視した。



「……考えるだけ無駄、無駄! 明日は楽しいことがあるんだから。パーッと楽しんじゃえばいいのよ」



 そう声に出して自分を奮い立たせた。お母さんに褒めてもらいたい、頭をなでてもらいたい。きっと私がこんなことを続ける理由は一つしかなかった。

 ようやく決まったワンピースをハンガーにかけて、次はバッグの中身をチェックする。甘いマンゴーのにおいのするハンドクリームに、数量限定のリップクリーム。髪留めは淡いピンク色のリボンにしようと机の上に並べる。後は清楚感漂う白いハンカチと、ティッシュと。鞄に詰めるものをピックアップしていったらきりがなかった。万が一のためにこれも持っていった方がいいんじゃないかとあれこれ考えていると、バッグはものすごい重さになってしまった。これなら、ショルダーバッグじゃなくて、リュックのほうがいいんじゃないかと思うぐらい、バランスが悪い。



「でもでも、初デートにリュックとかなんか違う!」



 利便性を考えたとき、リュックの方が圧倒的だが、選んだ服と合わせるとかなり見栄えが悪いため、リュックは諦める。そうして、時計を確認するとすでに一二時を回っていた。



「待って、明日八時からなんだけど!?」



 明日の映画デートは人の少ない時間に見たいねという話になって八時に約束していたのだ。準備やら歯磨きやらを逆算すると六時に起きても間に合うかどうかだった。平日は、お肌のために早く寝て七時に起きるため、かなり睡眠時間が削られてしまう。私は急いで支度をすませ、布団にもぐりこんだ。でも、明日が楽しみすぎるという興奮からなかなか寝付けず、次の日起きたのはいつもと同じ七時で待ち合わせ時間より十分も遅れてしまった。



「絶対怒ってる!」



 温厚な四葉さんが怒るとは思わなかったけど、自分で指定した時間も守れない女なんて思われたくないと、慣れないヒールで走る。すると、待ち合わせ場所の目印である時計が見えてきて、その下に四葉さんを発見した。彼は私に気が付くとにこりと微笑んだ。




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