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病名「幸せ」の貴方へ  作者: 兎束作哉
第1章 幸せな出会い
12/62

11 必死な女の子

◆◇◆◇◆



 昨日と同じようにオレンジジュースを頼んだ幸は、上機嫌で足のつかない椅子で、パタパタとその足を動かしていた。その様子を見て、まだまだ子供だなあと思うと同時に、やはりそんな純粋な彼女と付き合うのはなんだか騙しているような気がしてダメだと、きっぱり言おうと考えた。

 でも、幸を目の前にしたらその言葉が出てこなくなった。僕の決意とはちっぽけなもので、傷つけてしまうかもしれないという心がブレーキをかけていた。言わなきゃいけない、今のうちにそう言わなきゃきっとずるずる来てしまう。そう頭ではわかっているのに、口があいたり閉じたりして、一向に進まない。そんな僕にしびれを切らしたのか幸は口を開いた。



「私、別れる気ありませんから!」

「どうして?」



 そのどうしては、きっと二つの意味を持っていたんだと思う。

 どうして、僕の考えたことが分かったのか。もう一つはどうして、別れる気がないのかということだ。

 そんなに僕は顔に出やすいんだろうか。繕っているつもりでも、幸にばれたということはそういうことなのかもしれない。どちらにしても、いおうと思っていたことは却下されたわけだから、どうしようかと悩む。

 幸は、真剣な表情で、じっと僕を見つめてきた。



「私、別れたくないです。いいっていったじゃないですか。今更撤回するなんて、そんなのありえません」

「そういわれても……」



 幸は頑に話を聞いてくれなかった。これは困ったと頭を悩ませる。



(幸の性格もよく分からないし、きっと僕が言うことも聞き入れてもらえないんだろうな……)



 僕の出した結論なんて論破されてしまうに違いない。



「幸、さん」

「幸」

「幸、僕の話を聞いてくれないか? やっぱり法律上大人の僕と、子供の君が付き合うのは違う気がするんだ。君のご家族も心配するだろうし、その、わかってほしい」



 僕は、受け入れられないとわかりつつもそう言い切った。ここで言い切らなければ幸に押し通されてしまうと思ったからだ。昨日もそうだったが、幸は一度決めたことは曲げたくない精神のようだった。

 ちらりと幸を見れば、酷く傷ついた顔をしており、短い前髪がたらりと長く垂れているようで、その顔がはっきりと見えなかった。傷つけてしまったのではないかと不安に駆られ、

あたふたしていると、田代さんがやってきた。



「どうしたんだい? 海沢くん」

「え、えっと」



 何ていえばいいかわからなかった。幸が傷ついているのは僕のせいなのではないかという罪悪感から、何を言っても自分の中で言い訳に聞こえてしまうようだったから。僕は口を閉じるしかなかった。状況を察した田代さんは、幸と僕を交互に見る。



「ねえ、君。君は海沢くんのどこが好きなんだい?」



と、田代さんは子供をあやすような声で幸に尋ねた。幸は一瞬方を上下させたが、うつむいたまま「分からないですけど、優しいところ、だと思います」と曖昧ながらに返事をした。それを聞いて、田代さんは僕の方を見る。



「だって、海沢くんはどうしたいの?」



と、質問を質問で返されたような気分になって、頭に疑問がいくつも浮かんだが、幸を傷つけたくないという思いが勝ってしまった。



「幸のことは、傷つけたくないです。それは、付き合うにしても、付き合わないにしても……です」

「海沢くんらしい答えだね。愛島さんはどう?」



 そう次に、田代さんは幸に問いかけた。幸は、「付き合いたいです」といったままだんまりを決め込んでしまい、話が進まないのではないかと思った。

 やはり結構ショックを受けているようで、僕も良心が痛む。



「そうだね、僕もちょこーっと、海沢くんの意見に賛成からな。大人と子供が付き合うって結構難しいし、君は学業を大切にしなきゃいけないだろ? 話を聞けば、高校二年生じゃないか。来年の受験のこともあるし」

「それでも」



 そこまで黙っていた幸は声を上げる。フルフルと震えていて、きっと大人に意見するのが怖いんだろうと思った。僕も強くは言えないし、子供が大人に意見する勇気や度胸っていうものは相当だと思う。自分の意見を聞いてもらうならなおさら。



「……私は、四葉さんが優しいなって一目ぼれしたんです。まだ、四葉さんのこと知らないことばっかりだけど、これから知っていきたいと思いました……なんて、こんな理由が通らないのもわかります。でも、私は」



 そこで、幸は言葉を切った。何かを言いたげに顔を上げたが、その重く閉ざした唇から何か言葉が放たれることはなかった。その時、ふと「何故幸はそんなにも必死なのか」という疑問が浮かんでしまった。幸は可愛いし、探せばきっといい人は見つかるだろう。でも、今の幸は、僕に捨てられるのが嫌だ、そんな雰囲気が伝わってきた。

 僕はそんな幸を見て、助けてあげなければと思ってしまった。



「分かった、幸。別れるって言わない」

「ほんと?」

「だって、幸は本気なんだろ? じゃあ、僕もそれにこたえないと。ごめんね、幸の話を聞いてあげなくて」



 僕はそう言って幸の頭をやさしくなでた。




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