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The killer of paranoid Ⅲ 3

 挨拶を交わした後、ハクと名乗る物体は昼寝をしていたらいつの間にかここに居たと言う。夢の世界の住人との事だがいまいち理解に苦しむ。それでも、妹の話し相手になってくれているみたいで笑顔が増えたのも事実だった。危害を加えないか観察し暫くしてから、寝息を立てている妹を見てハクが告げる。


「貴方に見せたいものがあります」


「なんだよ、改まって」


(ここからは、聞こえると不味いので直接念話します。貴方も念じて下さい)


(で、俺に見せたいものってなんだよ)


そういうと、妹の頭上に炎の数字が浮かび上がる。


172と見える。嫌な予感しかしなかった。


(これが、死神から姫さんに与えられた余命です)


(⋯⋯は?死神?急に何なんだよ。冗談じゃないぞ!!)


(死神は時として、死者を選別して魂を持っていく。変えられぬ運命だとしても抗いたいと思いませんか)


(ハクじゃなんとか出来ないのかよ!!)


(私が出来るのは力の譲渡だけです。死神を退けるだけの強い生きる意思の力があれば或いは)


(どうすりゃいいんだよ)


(死神が現れるその瞬間、彼女の生きる意思の思いを増幅させます。死神は生きる意思の目映い光に手出し出来ません。彼女自身のご病気自体は無理ですが、死神によって選ばれた彼女の死亡予定を無効に出来るとは思います。私は姫に生きていて欲しいのです)


ハクの真剣さは伝わってくる。


炎の数字がゆらゆらと揺らいでいるのが見え


更に詳しく尋ねる事となった。



 最初は、気休め程度の相談だったのだ。母が父に酒癖が悪いのを辞めさせたくて、あるカウンセラーに相談したらしい。言われた事は、自分の生活の中で守るべき聖域を作り、相手に解らせなさいというものだったらしい。母は早速実践してみた。朝、必ず朝ドラマを見る時間を作り、父がそれを変えようとすると牙を剥き出しにして父と敵対するようになった。これが第一段階。母は報告すると今度はカウンセラーから、毎日繰り返して理解が出来たら相手を怒らせると面倒臭いと思えるまで続ける事、小さい事から提案を受け入れさせ自分の信頼を勝ち取る事。それが出来れば相手を懐柔、洗脳は容易いと母は教えられ時間を掛けて実践した。すると、あれだけ酒癖の悪い父が控えるようになったのだ。それだけなら良かったのだが、母はそのカウンセラーにのめり込んでいった。神様のように拝み奉り、高い会費を払い、言われたものを次々に口車に乗って購入するようになっていた。父も急激に減っていく貯金残高と無価値な壺や札やブレスレットに気づいて激昂し、喧嘩が絶えない日々が続く。私は二人が喧嘩をするのを怯えながら家で耐える日々が続いて心身共に疲弊していった。怒声、何かが壊れる音。割れる音、悲鳴。暗い顔をして学校に行っていた時、一人のクラスメイトが声を掛けてくれた。


「暗い顔してるけど、何かあった?」


どうしようもなく、誰かに話したかった。


言って楽になりたかったのだ。


辛いことを聞いて共有出来る誰かが欲しかった。


しかしながら、彼の一言は私を驚かせるものだった。


「そうなんだ、なるほどね。じゃあ俺が二人の仲を元に戻してあげるよ。丁度試したい事があったんだ」


そう、彼は告げて私に微笑んだのだ。


間帯に今さら不安しかない自分がいた例えば、知り合いにそういう関係の知り合いが居て、弁護士だの、カウンセラーだの、警察だのが詐欺師に騙されている事を母に説明してくれるのだと期待していた。しかし、放課後待ち合わせた場所には彼一人しか居なかった。駅前17時。人も多くなった時間帯に今さら不安しかない自分がいた。


「じゃあ、行こうか。多分どうにかなるし心配ないと思うよ」


そう言われたが不安で一杯だった。というか、改めて考えると結構ヤバイ事をしているんじゃないだろうか。普段はクール系男子を装っているが好きな女子にはがっつく肉食変貌系だったら?目的は母ではなく自分じゃなかろうか。なんて考えたら、あんまり喋った事がない男子を自分の家にあげるのは不味いんじゃ?電車の中で、そんな考えを巡らせて顔が真っ赤になる。家庭が崩壊して疲弊していた私の脳が段々と冷静さを取り戻していく。クラスメイトの一人ではあるけど、それほど喋ったり、意識した事はなかった。どういう経緯にしろ自分に気でもなければここまで他人の事情に首を突っ込みはしないだろう。それとも仏に匹敵するレベルの聖人君子とでもいうのか。私の頭は混乱に満ちていた。


「あの、何で私の相談に乗ってくれるの?」


「ああ、それなんだけど。こっちにも事情があってさ。君の相談を受けるのに自分に利する所があるからなんだ。丁度良かったし」


「丁度良いって?」


「随分悩んだけど、初めて力を使うからさ」


そう言って、よくわからない事を言われて煙に巻かれた気分になった。家路に着き、彼を家に上げると母は荒れたリビングで恐らくカウンセラーであろう彼女の額縁に入った大きな写真を立ててお祈りしている。彼も少し驚いている様子だった。祈りに集中しているのか、こちらに見向きもしないのだ。


「ハク、あれがそうなんだな」


急に、うわ言のような言葉を吐いて、向き直り説明し始めた。


「今から君のお母さんの巨大化し過ぎた妄執を取り払う。これから起こる事は内緒にしてくれ」


「何それ、一体どういうつもりで⋯⋯」


彼は手を翳すと、母の頭の上から何か光の粒子が霧散し彼の手の内に集まってくる。大きな四角いキューブ状の物体が出来上がるとそれを今度は空に放り投げ、何者かがそれを吸収した。否、その白い体に入っていった訳ではない。その物体が掲げる鏡の様な物に吸収されていったのだ。ゾウの様な見た目だが色は白色で、羽をパタパタさせている。唖然としていると、そのうち母に変化が起きた。目を開けて、目の前の写真を見て怪しみ、そして私とクラスメイトに目を向けた。


「優里ったら、どうして携帯で呼ばないの!!ボーイフレンドが来るなら家中片付けたわよ!!ごめんなさいね、こんな部屋案内しちゃって。コーヒー入れるわね。部屋に持っていくわ」


そういって、あの母がカウンセラーの写真を隅に置いたのだ。これは最近の母の様子からしてあり得ない事だった。彼氏ではないと全力で否定した後、彼はそそくさと家を出た。彼はもう心配ないと最後に言ってくれ、事実この日を境に母の異常な妄執は消え失せた。カリスマを崇めたて奉るのを止め、会を抜けだし、浪費癖もなくなり父に散々謝った。泣き崩れていたが、父も改めてくれた事で許した。家庭が彼に救われた事は事実でこの一件が、花咲優里(はなさきゆり)とクラスメイト守永海人(もりながかいと)そして彼女の妹との出会いにもなったのだ。

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