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The killer of paranoid Ⅱ 6

「さて、放課後に美術部に来たのはいいけど」


(デリケートな問題かもしれないっすから慎重にやるっすよ!!)


じゃあ、あたしにやらせるなと胸内で突っ込みながら扉を開けて、平久霞という少女が居ないか周囲を伺うと、部員が活動中ではあったものの、彼女の姿は見えない。急に入った夏樹に視線が集中して皆不思議そうに注目している。とりあえずデッサンを行っている女の子に話を聞いてみる事にした。


「あの、霞さん今どこに居るか知ってるかな?」


「霞さんならさっき屋上で、作品のインスピレーション高めてくるって出てったけど」


「屋上ね、ありがとう!!行ってみるよ」


駆け足で屋上へと上ると、一人の少女が空を眺めて立っていた。夏樹も、最初に何を話しかけようかと思案を巡らせる。


「平久さんだよね?コンクールの金賞取ってた」


彼女が振り向くと、夏樹に段々と頭の上の物が見えてくる。水晶の様な固まりの中に、おぞましい化け物がこちらを睨む。


「そうだけど、何かよう?」


「ちょっと、話しないかな。あんたの作品で気になる事があってさ」


「私の作品にケチつけようって事?」


「ううん、逆。すごく良かったよ。あ、そうそうこれ飲んでちょっと話そうか」


買っておいた缶コーヒーを取り出して、霞に手渡す。屋上のベンチで二人座って、まずはコーヒーに口を付ける。


「で、結局話って何?」


「うん、作品が素晴らしいって思ったのは本当なんだけど、逆にそれが執念みたいな物に思えちゃって。作者自身の心情を表しているんじゃないかって心配になってさ。何か悩んでる事とかあるのかなーって」


「何、メンタリスト気取り?」


「そんな大層なもんじゃないよ。ただ、誰かに話すことで心の負担が軽くなったり、怒りが収まったりそういう経験あるでしょ」


「まぁ、一理あるわね」


(ここまでは、上手く言えたかな)


暫しの沈黙。そして彼女が口を開く。


「じゃあ、聞くけど、親が私の事愛してなかったらどうすればいいの?」


「ーーーーえ?」


「父は殆ど家に居ないし、母は私より妹を愛してる。何でもかんでも妹優先で私の事はどうでもいいみたい」


「それは辛いね」


「中学の頃からかな。小学校までは夫婦中も悪くなかったんだけどね、あれから父が家に帰らなくなって、母もおかしくなった気がする」



(ーーーーーーー想像を越えて話が重いよ!!!!)


(頑張るっす!!)


(あんたね!!!!)


「それで、メンタリストとしての意見聞いても良い?」


「専門家じゃないけど、私なら理由を聞きたいし、自分が嫌な思いをするならちゃんと思いを全部吐き出すよ。親の考えも、自分の考えも理解してもらってそれで納得出来りゃ幸いだけどさ。うちらは十代反抗期真っ盛りなんだしちょっとはっちゃけたって許されると思う」


クス、と霞は笑う。


「貴方、サバサバしてそうだもんね。その後親子関係どうこうとか考えないんだ」


「親子なんだし、血の繋がりは切っても切れないでしょ。だったら一回くらいぶつかっても良いんじゃないかな」


夏樹だったら、真っ向から組み合って話合う。


「そうかもね、ただ憎んで待つよりも聞いた方がいいかもしれない」


缶コーヒーを飲み干して、霞はすっくと立ち上がる。気づけば少し水晶と化け物が一回り小さくなって皹も無くなっている。


「話、聞いて貰ってありがとう。ええと・・・」


「ああ、私鈴鳴夏樹。夏樹でいいよ」


「夏樹さん。それじゃもう行くね」


「うん、部活頑張ってね!!」


霞が屋上から居なくなるのを見送り、夏樹は深いため息を吐いた。


(成功っすね!!めでたいっす!!)


(全然めでたくないって。話が重すぎて、どうしようかと思ったわ)


(でも、早くカボチャの妖精を何とかしないとあの子も狙われるっす)


(分かってるってば。今日はちゃんと残って学校で探すわよ)


夏樹はそれから、日が沈む時間帯まで学校に残ったが、その日は妖精は現れなかった。家に帰り、ベッドで眠って次の日がやってくる。目を覚まして、時計のアラームを切って、階段を降りて台所に向かった。椅子に座ってテーブルに母が作ってくれた朝食をつまんで口に放りこむ。バタートーストに目玉焼き。最後にコーヒーを飲もうとして口に含んだ瞬間目の前のテレビのニュースに目が釘付けになる。


「昨夜深夜頃、京都の一軒家で起こった一家暴行事件についてお知らせします」


パッっと住民が映りモザイク顔で語り出す。


「昨日の深夜23時頃だったかな~。急に大きな声が響いてガラス割れる音がして、こっちも何があったか怖くなっちゃって110番したんです。もう凄い剣幕と騒ぎでしたね。警察と一緒に家に入ったら家財が壊れまくって散乱してる中で家族が倒れてて、慌てて救急車呼んでね。結構血が流れてるもんだから私たちも慌てちゃって~。一個上の娘さん見かけないし、◯ちゃん?だったかな。姉妹なんだけど、旦那さんの連れ子って聞いた事あるかな。酒の席で旦那さん喋ってくれたんですけど。最近夫婦仲良くなくて、別居してるらしいんですよね。全然旦那さん帰って来ないらしいです。お姉ちゃんの方、連れ子のせいかお母さん嫌ってるみたいで可哀想っていうのは結構この辺じゃ有名ですね。多感な年頃ですし、何かあって爆発したのかなって」


ニュースキャスターに変わってまた喋り始める。


「家族の暴行の裏に、一体、何が起こったのか。警察は誘拐と事件の関与両方で娘さんを捜索しています。以上、大河内正志がお送りしました。続いて天気予報です、松永さん?」


夏樹は、時間が止まったかのように、コーヒーをボタボタ溢していた。顔が真っ青になり、昨日の自分の発言が脳裏に過る。


(いやいやいや・・・・・・流石にそんな訳・・・)


携帯のラインを見るとテレビ放映している近所の友人が興奮して文章を送ってきている。





こないだ学校で金賞取った平久さん家に警察とかテレビ局とかすごい集まっててやヴぁい☆朝から並んじゃった





の文字を見て夏樹の体に雷が落ちたかのような衝撃が走る。同時に昨日口にした無責任な台詞が脳内でフラッシュバックする。





反抗期真っ盛りなんだし、少しくらいはっちゃけても許されると思う






たった一回くらいぶつかってもいいんじゃないかな





「あああああああああああああああ!!!!あたしか!!!メンタリスト気取りかバカか!!!!デリケートな問題につついてややこしくして挙げ句爆発させてこんな事に?寧ろバカの天才か!!」


「ちょっと、どうしたのコーヒー溢して朝から喚いて!!片付けとくからとっとと学校行きなさい!!」


そう言われて、涙目になって頭が冷えて腹を括る。


(何が出来るか分からないけど、あたしのせいだ。出来る事はしなきゃ)


そう決意して、夏樹は学校へと急いで向かう事にした。



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