The killer of paranoid Ⅱ 5
京子は気分転換に京都の町を見歩いていた。京都震災以降新しく建てられた建物が多く、重要文化財産指定の建物にも多くの被害が出たものの、町と共に復興し順調に観光産業都市として復活を遂げた。以前にも増して外人が訪れるようになり京都は夜も明かりが煌めいている。ふと、京子がすれ違う男性の中に足に重りを付けて歩いているのが伺えた。本人に重くないのか尋ねたい所だが、これは心の重荷が具現して見えているせいだと兄は言う。何を抱えているのか分からないが、彼の足かせが外れる事を京子は切に願う。次に、橋の真ん中でボーっとしている少女の姿が見えた。誰も彼女に気づかず素通りしている。そして、彼女の体を透き通るかのように何事もなく人々は歩みを止めない。ぶつかりもせず、ただ、透き通っているのである。幽霊は通常半透明に見える。以前はそうだったが、あの事件以降顕著に力の片鱗が見え始めた。妖怪や幽霊が以前よりもハッキリと見えるようになり幽霊に関してはすでに触れないと生きているかどうかさえ見分けがつかない。夏に起きた変事の際には、妖怪を討伐した際に、浦美の抱えていた霊達が天上に上っていくのを皆眺めて幻想的だと泣いていた。
そう、只一人京子だけが全く別の物が見えていた。
幽霊が上っていく最中、大量に現れた船を漕ぐ櫂に乗ってやってきた和服美女達。そしてそれらに乗せられ、彼らは新たな世界へと連れて行かれたのである。ぽかんと京子はそれをただ眺めていた。
「あれは、あの世への水先案内人よ。人がこの世に未練を持ってたり、どこに向かえばいいか迷った子が居れば、説得してあの世へ連れていってくれる。この世とあの世を繋ぐ存在よ」
その時浦美は、見えている自分に気づいて説明してくれた。京子は女の子に声を掛けようとしたが、誰かに先を越される。
「あれ、ひょっとして迷子かな?翡翠ちゃん近くで見かけたから声掛けてあげるよ。こっちにおいで」
赤髪の毛の、女の子。少し吃驚したものの、彼女が誰かはすぐに理解した。心細かったのだろうか、彼女は嬉しそうに赤髪の少女に手を引かれて行った。周囲を伺えば、頭に変な物がぷかぷか浮かんでいる人が見える。
「ニャー」
「来てくれたんですか、社長」
黒猫が京子の側に寄り添う。京子は社長を抱き抱えて踵を返し、気分転換も終わりと晴れやかな気分で事務所へと歩み始めた。
11月に入り、学校ではある噂を良く聞くようになった。
夕暮れ時に見える“カボチャの妖精“学校の怪談になりつつあり、遭遇した者はいずれも恐怖によるトラウマか、それまで大事にしていた事柄や目標が二の次になるという。オタクを辞める良い切っ掛けとなったという人も居れば、人生の目標を失い途方に暮れている者も出ているらしい。昼食の食堂にて、夏樹はクラスメイトといつも通り談笑していた。
「それで、3年生の人が急に行きたい大学変更して就職するって言い出したんだって」
「スポーツ推薦決まってたのに蹴っちゃうとか勿体ない」
「周りも考え直す様に必死に説得してるらしいよ」
「そりゃーそうでしょ。だってこの学校からひょっとしたら金メダリストが出るかもしれないんでしょ?大学行って欲しいのは分かる気がする」
夏樹もそう思うでしょ?と言われて夏樹は答えた。
「そうだね、積み重ねて来たものをふいにするのはやっぱり勿体ないんじゃないかな」
(自分で出した答えじゃなくて人から無理矢理思いを盗まれた結果っすけどね。夏樹さんがバイトに精を出してる間に事態は深刻になってるっすよ!!)
(あたしが悪いみたいな言い方止めてよ!!)
夏樹にもいままでの生活があり、事情がある。ずっと事件に首を突っ込める余裕がある訳ではない。話し込んでいるとある少女が食堂に現れ、夏樹はまたも目を丸くした。一際大きい水晶に得体の知れない化け物が中に見える。皹が割れていて今にも出てきそうになっている。眼鏡を掛けた、小柄な女の子。美術コンクールで賞を貰っていた子だと夏樹は気がついた。
(ちょっと、何よあれ!!)
(生き霊すね。本来眠っている間に“思い“は夢の中でおいら達の世界に繋がり、運ばれ別の世界で妖怪や神様を形作るっす。それをチェックして世に放つっすけど、急に増えすぎた思いが大きすぎて体の外に出ているのがあの水晶の玉っす。そのうち妖怪になって生き霊として動き回るようになるっすよ)
(壊した方がいいんじゃないの流石に)
(あれは憎悪の固まりっすね。思いが消えると残った思いが絶望や悲しみだったら自殺まっしぐらなんすが)
(⋯⋯⋯え)
(人間は複雑っす。伊達に色々な人間を見てきている訳じゃないっすよ)
(じゃあ、放置した方が良いっての?)
(話を聞いてあげて欲しいすね。何かの切っ掛けで良い方向に変わる事もありますし、ただ放置するとカボチャの妖精が狙って盗む可能性も)
頭を悩ませていると横にいる友人が声を掛ける。
「夏樹最近元気ないね、カボチャの妖精にでも会った?」
「かもしれない」
カボチャではないが、悩みの種は尽きない。いつになったらバクの妹が見つかるのか、夏樹はため息を吐いた。




