The killer of paranoid Ⅱ 4
『Voo Doo Child』の看板がある建物の中では陰陽庁京都支部の面々が皆難しい顔をして椅子に腰かけている。大勢座るので、ソファーで足りず椅子を何個か用意した。早苗、和香、春坂、その他支部のベテラン勢と京子が画面に映し出された京都で起きそうな妖気の強い場所が予測で映し出されており、その中の赤い点のマークを見つめている。夏に起きたあの一件から数ヵ月が経過し、ようやく夏の怪談も終わって世間も落ち着きを取り戻しつつあった10月初旬、生き霊での事件が少しずつ増加している事に陰陽庁は危機感を覚えていた。すでに本部にも連絡を取り合い連携の強化を図っている所だが今回不可解な事件が2件起こった為、情報の整理を行う為に集まった。
「それで、件の仮面の男と遭遇したのはここですか」
京子が尋ねると、早苗が答えた。
「この人物と相対したのは?竜也君でしたっけ」
「えーっと、はい、僕です。急に現れて手品をしたかと思えば体がゴムみたいな物にぐるぐる巻きにされて。恭太が斬ってくれましたけど、僕らの様な術に近いのか、すぐに消えてしまいました」
ちら、と相棒に目を配ると仕方ないなと交代した。失態なのであんまり話をしたくないのは恭太も同じだった。
「その隙に、仮面の奴が妖怪を手の平サイズに封じ込んでどっか行きました」
次に春坂が手を挙げ
「僕が遭遇したのは変なハロウィンのコスプレした女の子だったよ。ランタンと鎌持って箒で空飛んでるんだもんなぁ。口を開けてポカンとしちゃったよ」
その間に妖怪を先に攻撃され、キューブ状に封印して持ち去られた。映像を映し出すと、シルクハットとタキシードを被った謎の仮面男が妖怪を退治しようとしている隊員に接近、止めを指す前に動きを封じられ杖を用いて一人で妖怪と渡り合って消耗させた後、妖怪を謎のキューブ状に変化させて持ち去った。この前の少女は自身で手に持つハンマーで妖怪を消滅していたが、彼等は一体何者なのか今の所調査段階である。幸い少女の方は身元が判明し、尾行をさせて貰っている。妖怪を発見し、いざ討伐を行う前に乗り込んで来て妖怪を単独で撃退。彼女の行動もこのタキシード仮面と同様であり何か繋がっている可能性もある。
「妖怪を集めて何がしたいんでしょう?」
「今の所、邪魔してきた事以外に問題はない・・・か?」
「それをどこかで解放していたら大問題でしょ」
和香が呆れて突っ込む。
「早苗さん、牧田さんからは何か報告ありますか?」
「ストーカーみたいで心苦しいと言ってますけど」
「申し訳ないですけど引き続きお願いします」
「今の所目だった動きはないですが、良く一人でぶつぶつと見えない何かに話しかけてるみたいで様子がおかしいのは間違いないと」
「我々にも見えない“何か”ですか・・・」
京子は心辺りがあるように周囲に目を泳がせ、何か吐き出したい気持ちを押さえてぐっと止まり、溜め息を吐いたのだった。
夏樹は放課後、学校に残って散策をしていた。件のカボチャの妖精の真偽を確かめるべく調査する事にしたのである。まずは漫画研究会に居た人たちから話を聞いて、妖精の出没する時間を教えて貰った。最後の一人のミリタリーの格好をした生徒に話を伺う。
「大体、午後5時以降の夕暮れ時で御座った」
「どんな女の子か顔は見てないの?」
「恐怖で体が金縛りになってたで御座るよ。これ以上危険な目に遇わないように用心する為にも、護身用のハンドガンが欠かせないで御座るな」
本当に、ハンドガンを取り出して夏樹に見せた。
「へー⋯本物じゃないよね?」
「本物では御座らん。しかし見て下されこのデザートイーグル型のフォルムと重量感!!たまらんで御座るよ。一回触ってみてもいいで御座るがどうされますかな?」
「じゃあ、一回だけ」
夏樹は拳銃を手に持って、構えて引き金を引いた。中からは小さな玉が飛び出して地面に落ちる。重量感は無かったが、映画やドラマなどで良く見るタイプの銃である。夏樹も銃を見回し、普段見ることもない玩具に興味を引いた。
「お~結構面白い」
「それでは入部も検討してみてはどうでござろう」
さっと入部届けを出されて思わず一歩下がる。
「いや、それは考えてないから、ごめんね。ちょっと用事あるんでこれで」
と、笑顔で部屋を後にして夏樹は部室棟から去って後はバクに頭の上に浮かんで貰って学校の中で過ごす事にした。今は動きやすいように裏庭に来ている。バスケットボール部やバレーボール部が部活中なのか体育館からは声が響いている。夏樹は携帯で時間を確認すると午後5時頃になっていた。夕暮れ時になり赤い日差しが世界を覆う。周囲を伺うと、丁度体育館の屋根にカボチャの妖精とおぼしき少女の姿が見えた。周囲にカボチャのお化けを増やして夏樹に攻撃を仕掛けると、それをハンマーで消滅させていく。
「まさか、ほんとに出るとは」
(金縛りにあったって言ってたすけど、あれで押し固めてたんすね)
カボチャの妖精も吃驚したのか、表情が焦りに変わって見える。
「バクの妹さんなんでしょ?ちょっと話聞きたいんだけど」
「ああ、そういう事」
カボチャの妖精は箒に乗って夏樹の周囲を旋回した。
「悪いけど、今お兄さんに捕まる訳にはいかないんだよね~」
ニヤ、と笑みを浮かべると手に持つランタンから火を起こして夏樹に放つ。夏樹も吃驚して逃げ回って回避した。炎が地面で熱を帯びており幻覚の類ではない事に驚愕する。そのまま、夏樹は相手と距離を離して一旦離脱する。校舎の方へ駆け寄って廊下に入った。
「バク、あれあんたの妹さんなんでしょ!?」
(いやー⋯⋯違うみたいっすね)
「ーーーーーーはぁ!?」
(夏樹さんと同じっす。力を譲渡されてるっすね。)
「どういう事か説明してくれる?」
(こっちだって訳が分からないっすよ!!)
廊下にカボチャのお化けが跳ねながら追いかけて来たので飛び込んでくるタイミングを合わせてハンマーで殴る。消滅させていくと窓から距離が空いてカボチャの妖精が箒に乗って飛んで逃げるのを見て夏樹はバクに尋ねた。
「普通に空飛んでるけど、あたしも飛べるの?」
(創造力が欠乏してる夏樹さんにあそこまでのイメージ力は無理っすね)
仕方ないとバクが出現し、箒に変化して空中に浮かんだ。
「え、あたしに乗れっての?」
「今他に選択肢があれば言って欲しいっす」
仕方がないと腹を括って、夏樹は箒に股がった。本当に上昇して空中に浮かび始める。
「落っことしたらマジで恨んで出てやるからね」
そう呟いて、夏樹は空中を箒で駆け抜けた。廊下を飛び出して本当の魔女さながら映画やアニメで見た光景が今体験となっている。風を切り、スピードが出て校舎よりも高くなった。バクは旋回を続けてカボチャの妖精を探っていると外で彼女は待機している。恐らく獲物を探し求めているに違いない。
「突っ込むっすよ!!」
「ちょっ!!」
急に加速してカボチャの妖精に突っ込んでいく。相手も気がついたのか、全力で逃げ始めた。お互い、旋回飛行で飛び交う。カボチャの妖精が周囲にカボチャのお化けを出現させて邪魔を図り思惑通り夏樹達が急ブレーキで失速する。迫り来るカボチャのお化けに夏樹が叫んだ。
「ちょっと、どうすんのよ!!」
「何か、手軽な遠距離攻撃の武器とかイメージ出来ないっすか」
「さっきの銃とか?」
「なんでもいいっす!!夏樹さんのイメージが全部形になるっす!!」
夏樹は、先程のデザートイーグル型のイメージを固定させてハンドガンを思い浮かべた。手にハンマーではなく、拳銃が出現し、狙いを定めてカボチャの化け物を撃破した。遠距離攻撃が可能になって、夏樹が再度追撃を開始しようと追いかけるものの、先程と同じく大量のカボチャのお化けを出現させて行く手を阻まれるとそれらを銃で撃ちまくる。リロードなし、玉切れ無しのゲームセンターにあるガンアクションゲーム感覚。
「話くらい聞かせてよ!!バクの妹さんから力を貰ったんでしょ?」
「そうだけど、あの子がお兄さんは協力してくれないから逃げろって言われてんのよね」
(おおう、今まさに妹の関与が確定したっす)
バクもちょっとショックらしい。
「だからさぁ~ここは逃げるが一番ってね!!」
カボチャの妖精はマントを侍らし、急に反転して鎌で攻撃を仕掛けて来た。急に接近戦に持ち込まれて、バクは急降下でその一閃を回避すると再度距離が空き、その隙にカボチャのお化けを出現させた。回避した際に体制が崩れて回転し、夏樹が悲鳴を上げる。バクが何とか制止したが、すぐ後ろにカボチャが迫っていた。背後に銃を向けて、夏樹が弾を連射する。
「じゃあ、お兄さん方、バイバ~イ☆」
夏樹が銃でカボチャのお化けを全滅させるとすでに彼女は見えない距離に居る。ふわふわと空中に浮かびながら、今目の前に起こっている現実にようやく気がつく。広大な大地に、人間が建てた建築物が並び立ち夕日が沈んで最後の光が世界を照らしている。風が靡いて髪の毛が揺れると、車や建物のライトの光が美しい光景となって目に映る。同時に今自分が高度百数十メートル上空を飛んでいる現実に引き戻された。
「バク、何か今めっちゃ怖くなったから、今すぐ降りてくれる?」
今更?とバクも吃驚したが
「りょ」
とだけ伝えてゆっくりと学校の屋上へと降り立った。
「それで、やっぱ妹さんが絡んでるのは確定っぽいね」
バクも、箒から元の姿へ戻る。
「面目ないっす。でも学校に目的があるならまた捕まえるチャンスはあるっすよ」
「で、私はあんたの妹さんを探さない限りあんたと縁が切れない訳か」
「ここまで来てそんな寂しい事言われるとショックでかいっす」
「とりあえず、帰るわよ。あんな危ない目にもう遇いたくないし」
二人のそんなやりとりを、屋上の奥の裏から見ていた牧田が携帯で事細かに説明する。
「せやから先輩、見てました?何連鎖出来たとかスマホのゲームしとる場合ちゃいまっせ。モノホンの魔女っ娘ですわ。教会がまた煩いんちゃいますかねこれ。ええそうです。箒で、ええ、せやからゲームの話はもうええですわ!!切りまっせ」
電話の相手の先輩はどうにも、この件に関して然程興味がないらしい。というか、面倒だから自分に丸投げしている節さえある。校舎の中に戻っていくのを眺めながら、牧田は気づかれないように後を追いかけた。




