The killer of paranoid Ⅱ 3
くだらない事であっても、それがどれだけ本人にとって大切かを考える事も視野に入れる必要がある。
《ちょっと話しかけてみて欲しいっす。夏樹さんに警戒心が薄くなれば入り込める可能性もあるっす》
(マジかよ)
《マジより寄りのマジ卍っすわ》
「ちょっと興味で聞くけど、あの子どんな子か知ってる?」
「えー⋯誰だっけ。あ、そうそう漫画研究会の尾蔵君じゃないかな」
「研究会?そんなんあったっけ」
「部活として認められてないんだって。ただの同好会らしいよ」
「何、夏樹尾蔵君に興味あんの?}
「殴るよ流石に」
「冗談だってば!!」
談笑に花が咲いて、楽しい昼食の時間が終わった。話を聞けば漫画研究会に部室はないので図書室に漫画や購入した最近の本を貸し出し本として提供する代わりに自分達が持ち込んだ本を置かせて貰っているらしい。放課後になって、図書室と書かれた扉の前に立つと夏樹は深い溜め息を吐いた後扉を開けた。先程の尾蔵と、もう2人のガリガリの少年とぽっちゃり系女子の姿が見えた。後は数人程静かに集中して勉学に励んでいる。漫画を読みふけっているので、ちょっと会話し難い雰囲気が出ている。夏樹は借りたい本を探しに来た様な素振りで本棚で本を探す。
(なんかさ、3人全員に水晶が見えるんだけど)
見えるのは尾蔵だけではない、研究会員残り二人にも頭の上に水晶がぷかぷか浮かんでいた。
《そっすねー》
「最近、森田氏が来ないけど、何か聞いてない?」
「この前魔女っ娘チャコちゃん俺の嫁って言ったらお前の物じゃないとかマジ切れしてきてちょっとキモ」
「いやいや、それこそ平常運転也。寧ろ安心するで御座る」
「そういえば今期の覇権、我輩の一推しはやはりガオゲンガー3だと思うが如何に?」
「魔女っ娘チャコちゃんシリーズを差し置いてそれは無いと思うが?」
「私は刀剣百花繚乱 息吹の咲き乱れ☆一強かと」
「BL禁止ワード頂きました~」
「それ以外で?」
「BL抜きだと、私もガオゲンガー3かなーアキヤとミフネのカップリングでご飯食えるし」
ガラ、と扉が開いてもう男子一人と女子一人が入室してくる。
「ヘイヘーイ!!魔女っ娘チャコちゃんフィギュア持って来たぜええええええええ」
「やりおる」
「昨日発売したばっかなのに流石、川田氏そこに痺れる憧れる」
夏樹は石川君とやらが鞄から人形を出して見せびらかしているのを見て本棚に本を仕舞い、彼等の側を通りすぎて図書室の扉を開けた。後から来た二人にも変な水晶がぷかぷか浮かんでいるのが見える
《どうしたんすか?》
(おかしいな、同じ日本語だと思うんだけど⋯⋯全然わかんない)
会話が出来る気がしない、と
そう言って、夏樹はカルチャーショックを覚えて涙を滲ませた。
夏樹の去った図書室で、漫画研究会の面々は本を閉まって図書委員に挨拶をして廊下を歩いていた。夕暮れ時で夕日が窓から差し込んでいる。
「そういえば、まだ窓の犯人が特定出来てないらしいですな」
「どうせ不良の仕業では?十五の夜を再現してみたくなったとか」
「名曲~。あれ、何だろう何かイベントあったっけ」
一同が目の前にコスプレをしている存在に気がついた。大きなパンプキンの被り帽子に、全身を隠したマントを靡かせている。全身を隠せてはいないようで足の部分を見れば女生徒だと分かる。手には大きな鎌を引っ提げ、5人を見ていた。
「考えてみれば、ハロウィンの時期ですな!!いや素晴らしいコスプレ実に侮り難し!!」
そう言って一人がスマホを取りだし、写メを撮ろうすると、パンプキンが鎌を降り下ろして携帯を真っ二つに切り裂いた。小さな爆発が起きて5人は仰天する。パンプキンが威圧すると、5人は身動きが取れず固まった。何が起きているのか理解出来ぬまま、身動きが取れなくなり声も出なくなる。パンプキンは5人の頭の上をゆっくりと眺めていた。鎌が降り下ろされると思ったが、パンプキンは手を掲げ、彼らの頭から光の粒子を集めて掌に乗るキューブ状に変化させると満足気に廊下をすり抜け去っていった。数分の後に金縛りが解け、5人は大声を出してその場から逃げ去った。
夏樹は土日を利用して、ガオゲンガー3のアニメをレンタルビデオ屋で借りて視聴した。今やアニメは子供向けではない。大人も楽しめる一大コンテンツ。ドラゴンボールの映画がチャートで米国第一位を獲得する等余波は海外にも出てきている。アキヤという少年が世界を巻き込み悪党の総帥となっていくダークヒーロー物。様々な局面で見せるその彼の知謀ぶりに驚愕せざるを得ず、ロボット軍団を率いて対立していた国家と共に本当の敵は宇宙怪獣であると人類を一つにまとめあげ、ライバルのミフネとは友好や敵対を繰り返し共に道を歩んでいく。最後にはアキヤ自らが特攻して世界を救って自爆。
涙を流しながら夏樹は一言漏らした。
「今期の覇権はガオゲンガー3に決まりだわ。これは譲れない」
2日の間で、夏樹はガオゲンガー3の関連スレッドに書き込みを行いオタクのワードを検索して調べ理解し、ある程度彼等の言っていた事が分かるようになっていた。魔女っ娘チャコちゃんシリーズは日曜日の朝に放映されている子供番組ではあるが、魔女なのに、肉体言語によるプロレス技を主体とする最新の魔女っ娘。尚魔法は一切使わない。流石にチャコちゃんのシリーズが多すぎた為、見る事は出来なかったが彼等と会話が出来る程度には知識を得たと言える。月曜日になり、図書室の扉の前まで来るといざ決戦と夏樹は意気込む。
(世間話してくれれば良かったとか、言わない方が良さそうっすね)
《じゃあ、準備はいいっすか?》
(今のあたしならいけるはず、会話に混ざれるわ)
一夜漬けならぬ二夜漬けだが、数分話す程度には十分だろう。ガラ、と扉を開けると図書室が修羅場になっていた。
「皆どうしちゃったんだよ!!急にアニメに興味無くなっちゃうなんて冗談だろ!?漫画研究会を潰すなんてどうかしてるよ!!」
「それがねー森田君、僕らこないだカボチャの妖精を見たんだよね」
うんうん、と全員が頷く。
「カボチャの妖精?」
「そう、あれを見てから家に帰っていつものようにアニメを見ようとするじゃない?そしたらさー・・・何か面白くなくなっちゃって。こんなアニメ見るよりアイドル追っかけてた方がいいんじゃないかなー的な。ちょっと天の声きちゃいました的なね?」
そう言って、彼は推しドルの法被を来て見せびらかした。
「私も今でも好きだけどアニメばっかじゃやっぱ、女死高校生になっちゃうし。普段しない化粧に挑戦したらちょっと嵌まって。ここらでオタクやめよっかなってさ」
彼女も普段しないオシャレな髪型に変わっている。
「拙者は元々ミリタリー好き。アニメに浮気していたで御座るがここを抜けてサバゲー部を作ろうと昨日思ったで御座るよ」
そう言って、銃を構えてすでに迷彩服に身を包んでいる。
「私は彼氏のこー君が填まってたからでそんなに好きじゃなかったし」
「俺も何か熱が冷めちゃって。悪いな森田君ここに置いた漫画とかは君に一任するから好きにしてよ」
ゾロゾロと全員図書室から出ていき、森田一人になると呆然と立ち尽くしていた。
(あたし、まだ何にもしてないよね?)
《してないっすね》
(あれ、どうなってんの?昨日のふわふわしてる奴消えてるけど)
《夏樹さんの時みたいに“その人の核となる思い”が消えた状態みたいっす》
(誰かがあたしと同じ事を?)
《いえ、彼らの思いはまだ完全には消滅してないっす。盗まれたが適当な回答っすね》
(何でわかんのよ)
《消滅すると、その日のうちにまたアニメを見ようとは思わないっす。微かにでも残ってるけど、自分の中の優先順位が揺らいだ結果今1番好きな事が変わっている状態っす》
(カボチャの妖精って言ってたけど、妹さんじゃないの?)
《今なら彼等の中に入れるっすから種を植えたか調べてくるっすよ》
後程、バクはため息を吐いて、妹が種を撒いた痕跡があったと報告を受けこの無駄な2日間は何だったんだと夏樹はバクを締め付けた。




