The killer of paranoid Ⅱ 2
夏樹の学校は、山寄りにあり、ローカルバスや電車で通学する生徒も多数居り、賑やかな町から少し離れて寂しい場所にある。観光地方面程ではなかったが、震災の爪痕があり老朽化が進んだ建物ばかり目立つ。いまでも震災の爪痕があちこちに見え、潰す事も出来ずに放置して新天地へと移り住んだりした人も数多く存在する。耐震基準に満ちていないどころか今にも倒壊しそうな家々が立ち並ぶ道路を自転車で走る。観光地方面には国を挙げて復興費用を惜しみ無く使用しているのに、少し離れるとこういった風景が見えてくる。駅の前では現状を嘆いた政治家がこれでいいのか日本!と声を荒げているのを良く見かけるのも日常の一部である。自転車で通学していても、段々と都会から田舎へ向かっていくのが肌で感じ取れ、時間は掛かるが学校の最寄り駅から電車やバスで比叡山の入り口にも行ける。夏樹が学校に到着すると、自転車から降りて教室に向かう。靴箱で、牧田宗吾というクラスメイトと出くわした。明るいお調子者で、良く先輩とつるんでいるのを見かける。
「おはよーさん、結構ギリギリやなぁ」
「珍しいね、あたしに声掛けてくるなんて」
「たまにはええやろ」
「そう言えば今日集会があるんだっけ」
「そうやはよいかな遅れるで。そう言えばーーーーー」
と牧田が何かいい掛けて口を閉じる。
「何?」
「いやなんでもあらへん。すまんな急ごか」
そう言って、二人は教室へと急いだ。急遽全校集会が開かれる事になったのは、1学年の別クラスの生徒が美術コンクールで金賞を取ったという。校長が挨拶と説明して受賞者の名前が呼ばれた。
「えー⋯⋯ではこの度、貴方の作品が大変優秀な作品として認められた事を称え、ここに表彰を致します」
「⋯⋯⋯」
無言で受け取り、一礼してステージから降りていく。他にも、文化系の幾人かが受賞し、表彰され戻っていくのを眺めると全校集会は閉会した。玄関ホールの前で、受賞者の作品が飾られてあり金賞を受賞した彼女の作品には他にはない凄みがあった。というよりも、異質と言っていいかもしれない。全ての者を憎み嘆き、恨むような感情の爆発から生まれた憎悪を向けた化け物がこちらを睨んでいる。鬼気迫る表情の中にかいまみえる作者の感情を夏樹は感じた。平久霞はトイレの個室で表彰状を見つめる。ポケットからライターをとりだし、ゆっくりと燃えるのを眺めると彼女は不気味に微笑んだ。そしてそれをライターで燃やした後、流して跡形もなく捨て去った。
昼食になり、いつも一緒に食べる面子で食堂へと足を運んだ。夏樹はうどんを注文して、お金を払う。食堂のおばちゃんがいつもより機嫌が良いように見える。小柄ではあるが、可愛い小顔の40代半ばくらいの女性で年齢よりも若くも見える。
「今日、機嫌いいですね」
「分かる?うちの娘がコンクールで金賞取ったって聞いて舞い上がっちゃって!!」
(へー⋯⋯お子さんここの生徒なんだ)
「記念に大盛りに出来ないかな」
「そうしたいけど、ごめんね」
流石に無理だった。うどんを席まで持って来ると全員準備は完了だ。4人で会話が始まり、話とご飯が進む。
「旧校舎の3階の窓を割った犯人、まだ見つかってないんだって」
「ソウナンダ ハヤクツカマルトイイネ」
「怖いよねー」
夏樹は他人事のように反応した。思い当たりがありまくりだったがあの一件は夏樹にとって一刻も早く忘れたい黒歴史。ずるずるとうどんを平らげていると目の前を通り過ぎる太めの男子の頭上に光輝く水晶の玉が見える。ふわふわ浮かんでいて思わず手を止めてしまう。水晶の中にはアニメの美少女が映りこんでいて、彼が通り過ぎるまで目でも追いかけてしまった。
「ねえ、あの子の頭の上変なもん浮かんでない?」
「どこ?⋯⋯何、何が浮かんでる?」
「いや、水晶の玉みたいな物が見えてんだけど。手品でもやってんのかなと」
3人共、夏樹が指さした食堂の方を見つめる。一番最後列の太めの男子生徒の頭の上に確かに水晶がぷかぷか浮かんでいるのが視認できた。
「アハハハハハ!!夏樹冗談ばっかり~!!」
「だよね!!ごめんね変なボケかましちゃって!!」
「急にボケ始めるとか突っ込みどうすりゃいいのよ」
(あっぶねえええええええええええええええ!!!!あたしが変人になるとこだった!!)
《うーん、おかしいっすね。あの男子生徒の夢ん中入れないっす》
(じゃあ、あいつの夢の中に居るって事?ていうかあれ何?)
《可能性は高いっすね。あれは人の妄想や執念の塊っす。夢の中だけじゃ収まりきれない程強い思いがあると、ああして頭の上に出てくるっす。だんだん大きくなって、昨日の一件みたいに暴走する可能性もあるっすよ。放課後要チェックっす》
(あたしはどうすりゃーいいの?あれ何なら今から壊す?)
《サラっと言ってますけども。その人にとって一番強い思いや願いである事を考慮するっすよ》




