The killer of paranoid Ⅱ 1
ライブ会場には、超満員の観客で溢れていた。1、2、3、4とドラマーがスティックを交差して叩いて夜のステージのライブが始まる。夏樹はボーカルで歌を披露しながらギターを演奏していた。お客さんも光るライトを揺らしながらドーム全体が一体感に包まれる。夏樹は精一杯歌を歌い、観客はその歌声に酔いしれた。一曲を終えて一息つくと肩を叩かれる。
隣で一緒に演奏していたギタリストではない。
「良いステージっすね!!でも何かお忘れじゃあないっすか」
さっきまで一緒に演奏していたギタリストの顔が完全にバクだった。
そこで完全に夢から覚める。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!」
ハァ、ハァ、と息を荒くして周囲を伺う。時刻はまだ4時半。朝日も上っていない。
《暫く夏樹さんの夢の中で厄介になるっす》
と、頭の中で声が響いてきた。
(ふざけてないで頭の中から出てってくれる!?)
《そうは言っても、すでに力の一部を譲渡しちゃったすからねえ》
(分かったわよ、手伝えばいいんでしょ!?妹さん探し!!だからあたしの頭から出ていって!!)
《しょうがないっすね》
と言って、バクは夏樹に姿を見せた。
「それで、妹さんどのへんに居るのか見当付いてるの?」
「それがっすね、夏樹さんの学校の誰かの中に居ついているみたいなんす」
「じゃあ、会いに行きゃ良いじゃん。わざわざあたしを頼る必要なくない?」
「そうなんすけど、どうも見つからないように隠れてるっぽいんすよね」
「何か、やらかしてて逃げてるみたいな?」
「かもしれないっす。ちょっと不穏な気配も漂ってるんで」
「今日中に終わらせるかんね、後夢に二度と出て来ないで」
「ラジャ!!」
と言って、夏樹はバクがどこかに消えたのを確認して、また眠りについた。夢の続きが見れると思いきや、今度は眠りについて目が覚めたら時計が鳴り響く。昨日の出来事が全て夢だったのではないかと思えたが目の前にふわふわ浮かぶバクがそれを許さない。
「家からも出てってくんない?」
「朝からきついのご馳走さまっす。妹見つけたら上に戻るっすよ」
切実な夏樹の朝の願いは、バクには届かなかった。




