陰陽庁怪異対策課京都支部 8
暗い部屋の中で、無数の蝋燭の炎が揺れている。地面には丸い円の中に逆三角形の紋様が描かれており、その中心に紋様が描かれた羊皮紙が置いてある。その文字は赤く、人の血で描かれている。紋様の前で黒人が胡座をかいて目を閉じて祈りを捧げていると突然蝋燭の炎が全て消えてしまった。黒人も目を開けて差し向けた悪霊がすでに消滅したと察した。
「教会もやるものだな。票集めの駒ではないという事か」
やれやれ、と無駄になった二人目の生け贄をどうするか思案する。悪霊を呼び出す為にまずは一人を犠牲にした。もう一人は天井に逆さに吊って羊皮紙の上に浮いている。少し切り刻んで、血が流れるようにしておりぽたぽたと数敵ずつ羊皮紙へと落ちていく。たまたま、道端で出会った幼い子供の兄弟だった。少年たちは、何も知らずに眼の前に現れたシャーマンに興味深々の様子だった。悪魔が好むのは人間の魂であり、感情である。醜く落ちた感情の深い闇こそ彼らの好物。無論、今の幼子の様に死に直面した恐怖の感情も然り。その場を去ろうとしたがドアの目の前で動きを止めた。それから、自分の扉越しに居るであろう者達に声を出した。
「死にたくないなら、止めておけ」
その言葉に、腹を立てたのか扉を蹴破って特殊な全身スーツに身を纏う者が3名侵入した。ヘルメットを被っており、男か女かも分からないが先程まで居た男は見当たらない。手に持つ銃を向ける相手を探して3人は背中を密着させて周囲を警戒するも気配がない。
「なんだ、さっきまでは確かに・・・」
「どうなってやがる」
「うあああああああああああああああああああ!!」
急に一人が何者かに首を持ち上げられているかのように空中に浮かんで首がありえぬ方角に捻れる。そして地面に落ちてぴくりとも動かなくなった。2人も慌てて周囲を警戒したが何も居ない。
「緊急事態だ!!神父はまだ来ないのか!!」
その言葉を発したが最後、二人は後ろで何かが動く音が聞こえた。先程、首を曲げられた者がそのまま立ち上がって銃口を二人に向ける。銃声の音が響く中、ゆっくりと男はその建物を後にして歩いていると、携帯の電話が鳴り響いた。
「やあ、実は日本で君の作った呪術道具がバカ売れしてんだけど在庫なくなっちったから、また頼みたいんだよね」
「その気になれば自分で幾らでも作れるだろうに。こちらの呪術元を念視されたようだ。教会の動きもかなり早い」
「そりゃ、大変そうだね」
「こっちの作戦は失敗した。私の目的の為にも君の話に乗ろう。日本に存在するかの一族が残した禁書の簒奪が出来れば、私の願いも叶うだろう」
男はそういうと、遥か先の日本の方角の空を眺めた。