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The killer of paranoid I 6

 夏樹は、一体どこに行くのかと訪ねるとバクは夏樹の家の近所の公園に先程のお化けが居ると告げた。学校までは自転車通勤なので自転車を漕いで公園に向かうと、バクは茂みに隠れるように夏樹に指示した。何事かと茂みから周囲を伺うとベンチに一人の男性が何やら目を瞑って舌を上下に動かしている。何をしているのか理解は出来ない。時おり誰かを抱いているような仕草も見え、パントマイムの一種かとも思える。


「見覚えあるけど、家の近所の大学生だった気が」


「大正解っす」


「それで、私のドッペルゲンガーがここに居るって?」


周囲を見渡しても、夏樹にはそれらしい人影は見えない。近所の男性に子供が近づかないように親が手を引いて公園から去っていくのが見えた。端から見れば完全に不審者にしか見えない。


「実は今、あんたには化け物が見えないようにフィルターかけてんすけど、その前に一応言っておく事があるっす。あれはあんたから発生した怪異ではなく、あちらに見える一人の男性が産み出した欲望の化身で、本来自我が生まれるような異常な発達はありえないんす」


じゃあ、フィルター外しますよと、バクは夏樹にも見えるようにその存在を見せた。夏樹は目を丸くしてドッペルゲンガーと男性を見る事になった。夏樹が向かい合うように、抱きつき、手を後ろに回して男性とノリノリでキスをしている情事が伺えた。一瞬で固まり、ギ、ギ、ギ、とロボットみたいに首をバクに向ける。


「あれがドッペルゲンガーの正体、朝おはよう御座いますご主人様★のキスから今夜も可愛がって下さいねご主人様☆のキスまで何でもこなす超従順で淑女な彼の理想の夏樹さんっす」


それを聞いて夏樹の頭が完全にショートして、ドサリと倒れた。


「さっきも学校で言ったすけど、おいらにゃ誓約があってあの化け物をやっつける事はできないっす。でも、力の一部を譲渡する事は可能っす!!」


「ああ、貰うわその力ってやつ」


ぐっと、拳に力を込めて起き上がる。


(怖ッ目がつり上がって洒落にならん程怒り狂ってるっす)


人は何故ゴキブリを見て殺そうと思うのか。生活圏に土足で踏みいられるから、身の危険を感じるから、それ以前にあの形態に生理的嫌悪感を抱くから。理由は様々である。目に入った瞬間、気になって仕方なくなって死体を見るまで安心して眠れる気がしなくなる。見つけてお互いに認識しあった瞬間から殺意を抱く者とそのプレッシャーを感じとり全力で生還する為に逃げる者の戦いが始まる。ある者はスプレーを手に持ち、ある者はスリッパで、またある者は専ら近くにある新聞紙や雑誌を丸めて武器にする。


「いいっすか、一応言っておくっすけどあれは純粋な夏樹さんへの行きすぎた純愛でもあるっす。化け物を殺すって事はその気持ちの消滅と同じ意味を持つっすよ」


「そりゃー男性なんだし、そういう事もあるって知ってるよ」


夏樹は尚もゆっくりと起き上がる。


しかし目は全然笑ってなかった。彼は誰にも迷惑を掛けていない。勝手に妄想が現実化して自分に襲いかかって来ただけなのかもしれない。妄想が具現化する程夏樹が好きなのは別に悪いとも言えない。別の形でのアプローチでその思いの強さを知れたらまた別の反応もしたかもしれない。


「でもさ、もう見ちゃったら無理だわ。あたしが完全に都合の良い女でさ」


夏樹は完全にゴキブリを対処する目で二人を見据えていた。


「あいつの妄想を片想い共々、綺麗サッパリ消してやるわ!!」


「やる気は十分っすね。じゃあ、一回目を閉じて欲しいっす」


言われた通りに目を閉じると、夏樹に力が注ぎ込まれる。体が微弱に光に包まれ、少しだけ浮かび上がり浮遊感を味わった。終わると光が消えて夏樹は自分の身の変化を確かめた。


「別に、何ともなってないけど」


「あの化け物をどうしたいのか、もう一度イメージして欲しいっす」


それなら簡単だった。あいつの妄想をぶち壊して粉々にする。そうイメージしたら、自然と手に巨大なハンマーが具現する。見た目程重くはないがしっかりと手に重さを感じた。


「これで、あいつを叩けばいいんだね。じゃあちょっくら、行ってくるわ」


夏樹はよいしょ、とハンマーを肩に乗せて、茂みを飛び出し二人の前まで歩き始めた。


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