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The killer of paranoid I 2

 学校のチャイムが鳴り響く。ようやく、学校が終わったと夏樹は腕を伸ばした。季節は10月半ば頃で、秋も終わりが近づいている。肌寒い風が窓から入ると、窓を閉めて鞄を手にした。級友にまた明日と別れを告げて、教室から出ようとすると教室のドアの前に複数人の男子生徒が立っている。背後に女子生徒が夏樹に指を指して男子生徒に指示した。


「夏樹ちゃん、ちょっとあれ⋯⋯」


「なんだろうね。あたしに用事かなぁ」


とぼけた顔をして、夏樹はそのまま帰ろうとしたが道を塞がれる。ちょっとその面貸せよ、と言われ夏樹は溜め息を吐いて後に続いた。学校の裏に案内され、人気の無い場所へと辿り着いた。大声で叫べば運がよければ誰か嗅ぎ付けてくれるかもしれない。


「俺のツレにちょっかい掛けたのってお前らしいな?どうしてくれるんだコイツ捻挫したみてーなんだけど?」


「おかしいね、その子うちのクラスメイトいじめてたからちょっと口挟んだ程度で手は出してないんだけど?そいつが嘘ついてる」


2日くらい前に、女生徒3人でトイレにクラスメイトを閉じ込め、バケツに水を被せて上から浴びせていたのを見て夏樹は3人に注意を促しただけ。女の子を保健室に連れていったり、親御さんに連絡したり後の世話が大変だった。女の子は泣きながら、嘘を吐く。


「ひっく⋯そんな私⋯嘘なんか⋯⋯信じて田辺君!!」


誰でも分かる嘘泣きで顔を隠した手の下からニヤケ面が見えている。


「おい、そいつ笑ってんぞ」


「え?」


田辺が振り向くと女性とは手で顔を完全に隠す。


「驚かせてんじゃねえ!!フカしてんじゃねえぞコラ」


「でも君可愛いじゃん。俺たちと今日一緒に遊ばない?」


「そーそー。素直に従ってくれたら痛い目見ないで済むんだけどな?」


「あたしこれからバイトの時間だからさ、悪いけど帰らせて貰うわ」


ノコノコ近づいてきた男に足で金的をかまして一人ダウン。焦った二人は夏樹に攻撃を仕掛けるもパンチは空を切り代わりに夏樹の渾身の右ストレートが入って勢いよく吹き飛んだ。最後の一人は距離を取って機会を伺っている。その引いたタイミングで夏樹は距離を詰めて、手を前に押し出す。後ろに体制が崩れたら勢い良く右足で両足を刈り取る。柔よく剛を制するを体現する技、大外刈りを決めて男子生徒を地面に叩きつけた。まさしく電光石火とも言える早業に男子生徒建ちは為す術もない。


「グエッ!!」


「で、あんたどうする?」


女生徒に声を掛けるとわなわな震えて逃げ出した。手を払って、鞄を持ち何事も無かったかのようにその場を悠々と後にした。中学校に上がった頃からだろうか、良く調子付いてるなんて言われて変な連中に絡まれる事が多くなったのは。最初に学校の先生に髪の毛を悪く言われて染めてきなさいと言われるのも恒例行事になったし、人は見かけで判断しないなんてのは結局スローガンでしかないのだとうんざりする程経験を重ねて来た。調子付いてないって心の中でどれほど突っ込んだか気が知れない。祖父はアメリカ人、母は日系ハーフ。そして夏樹はアメリカ人の血が4分の1流れる所謂クォーターである。ほぼほぼ日本人なのに髪の毛だけサラッサラのブロンドヘアーを受け継いだ。この国で金髪は珍しいだけならまだしも大抵はヤンキーという名のシーラカンスと同一視されてしまうのだ。何もしなくても向こうから寄ってくるシーラカンスに適当に相手をしていたらいつの間にか中学時代に“女帝”等と言われて恐れられる始末。高校デビューは失敗すまいと心に決めた身であるが中々難しいものだ。父は総合格闘技の技術講師。あらゆる格闘技を自分用に昇華させた護身術を生徒に教えている。本人も柔道、剣道、空手等々の黒帯の段持ちらしい。

夏樹も小さい頃に叩き込まれてヤンキーを追い払えている辺り習っておいて損は無かった事になる。母との出会いも渡米中に暴漢から守った事が切っ掛けだったとか。母親は音楽スタジオを営むオーナーをしていて二人とも経営者であり年中忙しいので、娘の夏樹が掛け持ちのアルバイトをしているのだ。


「夏樹ちゃーん、ちょっと練習したいんだけど今から5時間程借りれるかな?」


「大丈夫です、今日は皆さん久しぶりに全員揃ってますけどライブ近いんですか?」


「そうなんだよ!!結構大きな舞台でさ。目立てばメディア進出も夢じゃないよ!!」


1990年代、POPミュージックは大いに盛り上がりを見せた。幾つものバンドが結成され、テレビに進出し歌番組にどのTV局もヒットチャートを垂れ流しにしてきた。世は正に戦国時代の様相で実力者や時の運を持つものがアメリカンドリームならぬジャパンドリームを掴む事が出来る“アーティスト”とは正に一攫千金を手に出来る夢の職業だったのだ。しかし2000年代に突入してある変化が起きる。インターネットが普及し気軽に音楽がダウンロード出来る時代になるとCDは売れなくなっていた。トップアーティストですらCDの売り上げやダウンロードによる売り上げが伸び悩みカラオケ著作権料、ライブの箱代による収益が専らになる事もある。無論有名になればTV番組の出演やグッズ販売といったサイドも期待できるが握手券との抱き合わせでなければCDの売り上げが伸びない時代へと突入し音楽業は才能と才能の戦国時代から金をドブに捨てられる信者を餌にした音楽のアイドル搾取時代へと変わっていった。紅白前の伝統ある音楽番組で「これが今の音楽業界です」と審査員が嘆かわしいとぽつりと漏らしたのは有名な話である。


「成功するといいですね、ライブ」


今の時代に一角の夢を手に出来る難しさを知っている夏樹はそう心から応援したのだった。






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