Revenge tragedy of agent Ⅲ 10
残りの黒いスーツ姿の武装集団に襲い掛かり、銃弾を皮膚で弾いて襲い掛かった。自らの爪や牙で獣の様に振るまい蹂躙していく。しかし彼らに悲鳴はない。攻撃を受けると瞬時に消えてしまった。幻や霞の様に斬った感覚がない。それなのに、彼らの攻撃は和則に直撃している。銃から短刀に切り替えて近接を図ろうと返り討ちに合った者。背後を取ろうと回り込んで射撃をしてきた者。複数人で和則の腕に絡み付き動きを封じて来た者。更には囲んで全員で殴って来た者達。そのいずれも意思が明確で和則も一つ気づかされた事があった。
死を恐れていない。
仮面の底から見える赤い瞳が不気味に思えた。
返り討ちにする度に笑っている気さえする。
殺しているのは自分のはずなのに、一人減る毎に畏怖を感じた。
最後の一人を伸ばした爪で八つ裂きにする。
気づけば和則は肩で息をしていた。体はすでに満身創痍。
異形の姿から元の状態にまた戻っている。
残りは5名。序盤に連携を取った4人に加え一人和服の姿を取る少女。糸を繰り出す者が動きを封じようと左腕に巻き付けたが、逆に糸を利用され、無理矢理引っ張られて宙に振り回され小太刀の者とぶつかった。残りの二人が間合いを詰めるも攻撃を防ぐ事もなく敢えて受けきった。代わりに全霊を込めたカウンターの裏拳を繰り出し、トンファーの者を吹き飛ばし、最後の太刀を持つ者の攻撃を手の平を犠牲にして受け、蹴りを入れて転がす。
「あら、全員やられちゃったわね」
最後はお前の番だと和則が一歩前に進んだ瞬間目の前の少女は指を鳴らした。
「じゃあ、2回目いってみましょうか」
何を言っているのか、和則は理解出来なかった。
何せ微笑ましい笑顔で、彼女は再度黒服のスーツを着た武装集団を呼び出したのだから。
一人も欠ける事なく全員が目の前に出現している。
この状態から再びあの人数を相手にするのは難しい。怒りを滲ませながら和則は、彼等に背を向けて走り出した。背後から発砲音が聞こえ、銃弾が真横を通りすぎる。傷だらけの体を抱えて建物の中へと入った。上層階を目指してひたすら階段をかけ上り屋上へと出る。気づけば逃げ場はない。
「ねえ、浜田和則さん」
いつの間にか、和則の背後に和服の少女と先程の集団が勢揃いしている。
「貴方、彼等に見覚えあるでしょう?」
黒服の集団が、全員その場で仮面を上に放り投げた。
風が通りすぎる。
仮面の下の表情は怒りで満ちていて、その視線の先には和則が居る。彼等の顔を見て、和則は自分が殺して来た者達が目の前に居る事を理解した。初めて恐怖で身がすくみ、足が震えて動きが止まる。和服の少女が一歩前に出る。和則は逆に一歩下がった。
「皆は、貴方の事を忘れた事は一度もないそうよ?」
また一歩前に出て、和則が一歩下がる。
「本当に長い間、貴方を探したわ。でもこれでようやくお仕舞い」
優しい表情から浦美の表情が一変する。
「彼等の恨み、私がここで晴らします」
短刀を手に持ち、距離を詰めて浦美が和則の心臓に突き刺した。その勢いのまま空中に一緒にダイブする。空中で和則は意識が朦朧とする最中、彼女の言葉が耳に聞こえた。
「貴方の魂は、輪廻の和に加わる事なくここで消え去る。地面に着くまで最後の瞬間を味わいなさい」
それを聞いて、和則は死を意識した。
恐怖と絶望が自分を黒く塗り潰し
初めて生に執着した。浦美はその様にせせら笑う。
緩やかに最後の時間が流れた様に感じ
地面に直撃した瞬間
和則の魂は彼の体から完全に消滅した。




