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Revenge tragedy of agent Ⅲ 7

「そう、貴方は望むのね。更なる欲望を叶える為に」


冷めた目で化け物を見つめる。お互いに殴り、蹴り、投げ、掴みあう。殴り合いの中で化け物がクロスカウンターを繰り出し、真義に一撃を入れる。後方に吹き飛んで校舎からグラウンドへと飛ばされた。転がりながら埃を撒き散らし、やがて止まる。同時に、廃校舎が崩壊して崩れ落ちた。巨大な瓦礫が崩れる音が響いて、一斉に砂塵が吹き荒れた。瓦礫の山から顔を出し姿を見せる。煙が周囲を包んで化け物はその中の影を追った。拳を突き放とうと力を込める。放つ瞬間、声が響いて思わず化け物の動きがぴたりと停止した。


「和則?⋯⋯あんたなの?どうしたちゃったの、その体は」


勢い余った衝撃波は突風となって埃を払った。


彼にも彼女の姿が良く見えている。


彼の記憶に残る若い姿の母親が。


思わず、化け物が数歩下がる。


「兄ちゃん、どうしたのよ吃驚して」


今度は後ろから妹の声が聞こえる。


化け物は思わず手を差し伸べた。

触れるかどうか確かめようとした瞬間幻影の様に、二人の姿は消え去った。


「記憶の中の母親と対面させてみましたが、やはり彼で間違いありませんね」


すぐ近くに、女性が立って化け物を見ている。


「それが分かれば私の役目もお役御免です」


反対を見れば、真義が口から血をぺっと吐いて印を組む。


「魔法省としては、この一件よりも妹さんの件の方が頭が重いんですよね。どうしてもっと早く報告しなかったのか追求は後にしますけど」


「寛大な処置を宜しくお願いします。座標はこちらになります」


会話をしながら、二人は化け物の下に魔方陣を描いてゆく。


「分かりました、転送します!!」


一瞬の光と共に、化け物が転移する。


真義は役目が終わって緊張の糸が切れたのかその場で大の字になって寝転んだ。光が止み、化け物はどことも知れぬ街の光景を目にする。広大な土地にビル郡が立ち並びどこか繁華街を思わせるも人の気配がまったくない。排気ガスの臭いもしなければすぐそこのクレープ屋から美味しそうな甘い臭いもしない。車が通っている訳でもなく、信号機も動いてない。嗅覚が鋭くなった鼻には何も感じないのだ。途端、化け物の前の建物にある巨大スクリーンにザーーという音が響いた。周波数を合わせているかのように、徐々に映像と音声が鮮明になっていく。午後のニュース番組が映し出されている。ニュースキャスターとコメンテーターが数人机で議論を交わしている。


「また通り魔事件が発生しました。一連の事件の犯人と思しき男に拉致され、無事生還を果たしたとの事ですが、うち一人はあの大河内正志さんだという事です・・・・3名のうち一人は重症、一人は軽傷、一人は無傷だそうですが」


「当局の朝の顔じゃないですか。心配ですね。無事だと思いたいですが」


「え、今病院から一人の男性が大勢の記者の前に姿を現しました!!ここから中継でお伝えします!!」


「何が語られるんでしょうね。その言葉に注目が集まっています」


「大河内さんじゃないんですね。え、喋るのは彼の友人なんですね」


「彼は今治療中との事ですし、恐怖による錯乱もみられるとの事で・・・」


病院の前で大勢のマスコミに撮影され、マイクが波の様に押し寄せられる。


佐竹一馬は静粛にと呼び掛け、報道陣を宥めた。


ある記者が堪えきれずに第一声を発した。


「一連の事件の犯人に捕まったと聞きましたが、犯人はどんな奴でしたか。神出鬼没、犯人の痕跡一つも残さない完全犯罪を成し遂げる世紀の殺人鬼が何者であるのか、詳しく教えて頂けますか」


しんと静まり、一馬は口を開く。


「犯人は今や謎多き怪物と呼ばれています。シリアルキラーで愉快犯。常識を逸脱した残虐性を持ち併せた平成のジャック・ザ・リッパーとも。私は10年前彼に姉と一緒に連れさられました。恐怖の中で姉は殺され奇跡的に私は生き残りました。ですが彼は目印を残していたんです」


そう言って、自分の手の平を見せて傷跡を見せる。沢山のフラッシュが巻き起こった。


「友人の大河内も今回奴に傷を残されましたが、これを目印にして犯人は残った獲物を狩っているんだと言いました。そして少年時代、私は恐怖から犯人を化け物だと錯覚していましたが、今の彼の姿を見て納得しました。犯人は死んだと断定されていた


ーーー浜田和則その人だったんです」


その言葉に、驚きと共にテレビの中継を見ていた者全ての“認識”が変わる。


正体不明の怪物から、浜田和則という人間へと。


そして、中継を見ていた化け物も急激に寒気に襲われその場に踞った。


大きな声を張り上げて力が抜けていく感覚を味わい


異形の存在から元の姿へと変わった。


自分の手の平を眺めて、消滅していない事に安堵したのもつかの間


「こ ん ば ん わ♪浜田和則さんね。お久しぶり、私の事覚えてるかしら?」


大勢の黒いスーツを着た仮面を被った武装集団と共に、あの和服の少女が目の前に現れた。

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