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陰陽庁怪異対策課京都支部 6

 春とはいえ、まだ肌寒い時期故か空気は重く少し冷たい。紅葉と京子が森の中を探索していると、犬の遠吠えが聞こえた。夜空には煌めく星々が目の前に広がっており、夜の散歩にしてみれば気分は高揚する。犬の遠吠えで気がついた京子が紅葉に提案した。


「確か、橘家に仕えている犬の式居たよね」


「居るけど、煩いから呼びたくない」


「何かの役に立つかも」


しょうがないわね、と言って紅葉は召喚札を取り出して犬を呼び出す。喋れる上、知能が高く優秀ではあるものの呼び出されたくないのか、愚痴を良くこぼす。


「こんな夜中に呼び出すのは非常識ではないだろうか」


一々もっともな事を言ってくる。


「今幽霊の調査してるから手伝って」


「それくらいなら喜んで」


早速、影丸が臭いを嗅いで二人を導く。

15分程さまよったが、何も起きる気配がない。


「じゃあ、ちょっと休憩しましょう。由紀さんと交代まで後数時間だし」


その時、二人の耳にコンコンと何かの音が聞こえた。


「影丸、案内お願い」


「合点承知!!」


木から降りて、影丸は音のする方へ二人を誘導した。草木を掻き分けて、7分程森の奥へと行くと先程よりも大きな音がはっきりと聞こえている。絶え間ない一定の間隔で金属を打ち付ける音。木に潜んで二人はゆっくりと顔を出して現場を確認した。白い装束に身を包み、物凄い形相で藁人形に釘を打ち付けている。頭には蝋燭をくくり付けていて、火の玉の情報は合致する。


「深夜3時じゃないのに意味ないんじゃ?」


「そうね、形式に外れると途端効力を失うのが呪術だし」


二人は小声で確認し合う。呪い(まじない)にはルールがある。作られた制約の下で儀式を行えば呪術が発動する。従って深夜3時以外に行っても呪術は発動しない。


「とりあえず、由紀さんに報告して帰りましょう」


あの人を止めるのが任務という訳でもない。


唐突に、影丸の鼻に草が当たってムズムズする。


「ふえっくしょい!!!!!!」


二人は思わず馬鹿犬を凝視した。


「誰!?儀式を邪魔するのは!!誰かそこに居るの?」


逃げようとした瞬間、周囲の気が増大していくのを二人は感じた。藁人形から黒いもやが発生して大きくなり、空中で一つに纏まる。やがて大きな鎌を携えた死神が姿を表した。黒いフードの下には怪しく目を光らせた骸骨が白い装束を着た女を見下ろしている。周囲の空気が一変して冷たくなり、死神が息吹を出すと白く霧散した。呼び出した女性も訳が分からずに混乱している。


「なにこれ!!話が違うじゃない!!あ、そっかこれからお願いするのね!!」


あろう事か、死神に頭を垂れて女性は願いを告げた。


「お願いします、私を振ったあの男に死の鉄槌を!!」


死神は再度白い息吹を吐く。死神は何も語らず、女性は恐怖に身がすくんだ。死神がゆらりと風に揺れて死神の大鎌を構える。降り下ろされる瞬間、京子が飛び出して刀で防いだ。力が違いすぎて、簡単に吹き飛ばされ、女性諸とも後ろへと飛ばされる。飛び出した京子に、紅葉は愕然とした。紅葉も飛び出して死神に構える。


「バッ!!ッッツカじゃないの!!??」


死神といえば世界共通の人類が生んだ逃れられぬ死の恐怖から生まれた存在である。退ける事は可能かもしれないがそれも、トップレベルの魔術師や陰陽師や教会の者に限られる。ひよっこの紅葉達が敵う相手ではない。人の命を刈り取りあの世へ連れていく。興味を持たれる事があれば人はその時点で運命を決められてしまう。死神が宙を舞いながら、大鎌を両手に持ち一直線に突進してくると降り下ろされた一撃を回避して、札を飛ばして何枚か死神に貼り付ける。陰陽庁が得意とする符術。京子は印を組んで札を爆発させた。爆発をものともせず、京子の方へと向かう死神に紅葉が相対する。刀で斬りつけるも全く効いている様子もない。死神の鎌を回避するのに精一杯で奇襲をして以降は防戦になり、霞を斬っているようで実感はない。死ぬかもしれない恐怖に冷や汗を浮かべて紅葉は怒鳴った。影丸が煙幕をの玉を大量に放り投げて視界が遮られる。その隙に二人は女性を担いで逃げ出した。幸い女性は泡を吹いて気絶している


「京子!!何で出てってたのよ!!」


「人助けに理由がいるの!?」


「勝てない相手に挑むのは無謀でしょ!?」


「一応、勝算がないこともないんだけど・・・」


「じゃあ、いいなさいよ!!」


「いや、んな事言ってる場合じゃないワン」


森の木々が音を立てて崩れていく。死神が鎌を放って木を斬り倒している。倒れる巨木を回避ながら、二人は駆けた。側を走っていた影丸が上を見上げる。煙幕の中上昇し、遠目から二人を眺めて追いかけて来たのだ。二人が歩みを止めて再び、死神と対峙する。


「労災保険の適用を申請する!!」


「生きて帰れたらね!!ちょっと黙ってなさい馬鹿犬!!」


二人に向かってくる死神が、何者かに気づいて空中で制止する。由紀が結界を張ってそれ以上死神が進めないよう閉じ込めたのだ。結界を壊そうとするが、それ以上に進めぬ何かに死神は気づいた。目の前の女から、目映い程の温かな感情が溢れている。死とは反対の感情は死神の最も苦手な物である。


「人間賛歌は勇気の賛歌!!紅葉、逃げてばかりいては始まらないわ!!人間の素晴らしさを語りなさい!!」


「由紀さん!?ええっと、人間って素晴らしい!!」


「もっと大きな声で!!」


「生きるって素晴らしい!!」


「もっと心を込めて言いなさい!!」


唐突な無茶ぶりに紅葉は困惑した。対して由紀は何故か輝いて見える。まるで宝塚のトップスターと言わんばかりの華やかさがある。


「心から思うのよ!!人間は素晴らしいと!!生きて感謝し、幸せであると!!そして京子は手に持ってるそれを早く!!」


ヤケクソ気味に紅葉は声を張り上げた。


「生きてるって素晴らしい!!」


思いきり恥ずかしがっている紅葉の大声に死神もたじろいだ。


「今、終わりました」


煙幕で視界が遮られた瞬間慌てて持ってきた彼女が使用していた藁人形。それに符を貼り付けて地面に転がした。印を組んで爆発させると死神も触媒を失い、消えていく。脅威が去ったと実感が沸いた二人は、どっと疲れたのかその場に倒れたのだった。


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