Revenge tragedy of agent Ⅰ 15
公園の道端で女性が殺されている。地面には彼女の血痕が夥しく残されており首筋、手首、足首、それと掌に逆三角形の切り傷が刻まれている。昔の傷と相まって、五芒星に見えなくもない。鑑識の人間が周囲を調べており、刑事は場を荒らされないようにキーピングテープから見張りつつ、現場を改めている。20代女性、会社帰りで家路に着く途中に襲われたのだろう。身元も判明し、死体を解剖して詳しい結果を待つ事になる。
「猟奇連続殺人事件は継続中⋯と。何か痕跡でもあればいいが」
「狭間さん、ちょっといいですか?」
刑事の狭間健也は怪訝な様子で聞き返した。
「何です?改まって」
「いえね、女学生が情報提供したいって言ってるんですが」
「ああ、赤い髪のあの子かな。ひょっとして」
「そうです。お知り合いですか?」
「知り合いっつーか⋯⋯捜査を混乱に貶める迷探偵という名の電波さんだよ」
げんなりと狭間はそういうと、視線を向けると確かに女の子が何か言いたそうにうずうずしている。人込みの最前列で何をやっているんだと言いたくもなる。事件があるとこうして出没する。本人に何故敏感に毎度来れるのか聞いた事があったが
「知り合いの神様とか妖怪が教えてくれるの」
等と訳のわからない事を平気で言って来る。
そうして死んだ幽霊の言葉を受け取り、伝えてくるようになった。有り難い情報もあった事もあったが電波発言が多すぎて誰も信用しなくなり煩い野次馬の一人として認知している。狭間は追い返す為に仕方なく話掛けた。
「で、情報提供ってやっぱり君か。それで、幽霊は何と言ってるんだい?」
「犯人は人間じゃないって言ってます!!」
両の手を強く握って余程の自信があるらしい。
「人間じゃないとなると⋯⋯はっはっは、宇宙人?」
「いえ、これは妖怪の仕業だと思います」
ジャブなしのストレートを入れてくるいつもの電波さん。こっちはノックアウト寸前に気づいて欲しい。
「妖怪ね、ポストに葉書送りたいわ今」
反転して、現場にゆっくりと戻る。
「後、掌に逆三角形の切り傷受けたって。犯人は10年前の被害者の生き残りを狙ってるかもと言ってます!!」
その発言に狭間は足を止めて振り向いた。
「君、その情報誰から―――――――あれ、居ない?」
少女が忽然と消え姿を消した。邪剣に扱ったからか去ってしまったのか。それより、まだメディアにも流れていない情報を一体どうやって。
「まぁ、追い返しに成功したと考えておくか。ったく誰か漏らしたな?」
(10年前の生き残り⋯⋯もし本当生き残りに全員に切り傷があったら⋯⋯いやいやいやいや、そんな訳⋯)
先に殺された2名にそのような接点はないと狭間はそう考えて現場へとゆっくりと歩いて戻った。
「痛い!!痛いって洵ちゃん!!」
「ったく、目を離した隙にどこにふらっと行ったかと思えば普通の女子中学生の行くとこじゃないでしょうが!!」
耳をつままれ、鬼の形相で赤い髪の少女を引っ張る女の子が目撃された。
お通夜、そして葬式がつつがなく終わり、京子は陰陽庁本部に呼び出されていた。畳の大広間で幹部も並ぶ中、彼女の兄が京子に言及した。
「流石に、最初から上手く出来るとは思わん。妖怪と仲良く言うてもまぁ戸惑うわな」
「⋯⋯⋯」
「それでも、浦美ちゃんと連携して最初から組んでおけば死者は出さんかったはずや」
「はい。次は私も現場で指揮を執るつもりです」
重軽傷者多数、死者3名。全滅しなかったのは彼女と社長のお陰と言って良い。怪我をして状態の酷い者は入院していて暫く復帰の見込みは期待できない。今後は更に少ない戦力で鬼を相手に動かねばならなくなった。
「天災の域を出とるかもしれん相手に、無謀な戦を仕掛けるのがお前の仕事やない。綿密に作戦を立て勝つ算段を取って送り出し可能な限りサポートするんがお前の役割や。これ以上言わんでもわかるな?」
耳に痛いほど、良く聞こえてきた。失態は挽回せねばならない。何より、紅葉が死んでいたかもしれないと思うと京子の背筋が寒くなった。拳を強く握りしめ、京子は自分を戒める。
「それでは、手立てを承りたく思いますが、何か策はありますか?」
「情報が少ない時は、妖怪屋敷に住む九尾の狐に聞くのがええやろう。丁度ええ機会やし、支部局長の挨拶も兼ねて面会に行ってくれ。それと」
指を鳴らすと、誰かが襖を開けて入ってくる。京子の前までくると、綺麗な女性が丁寧に挨拶した。
「私は、五鬼真義と申します。本日から京都支部へとと移りますのでどうぞよしなに」
「五鬼って⋯⋯あの?」
「そうや、前の一件で色々あったが、前鬼と後鬼から生まれた五人兄妹の一人や」
「その節は本当にご迷惑をお掛けしました!!誠心誠意勤めさせて頂きますので!!」
真義が恥ずかしそうに謝罪する。最強の式神から生まれた末っ子を支部に迎え京子は次こそ鬼を討つべく決意を固めた。




