陰陽庁怪異対策課京都支部 5
陰陽庁の任務は大きく分けて2つある。街を徘徊して守護する役目と陰陽庁から依頼を受ける斡旋任務。斡旋された任務を引き受けている期間は街を徘徊する任務からは解かれる。尤も、引き受ける事を受諾したとして依頼が回ってくるかは陰陽庁の受注と斡旋を管理する役職の匙加減次第と言われており、任務に当たり力量不足であるとか適任ではない等の理由で外される事もある。インターネット技術やパソコンの目覚ましい発展により、任務の受注と斡旋を電子化する案も出てくるようになったものの、情報を漏らさぬ様にする為わざわざ任務内容を市役所まで赴かなければならない。呼び出しは電話なのにと紅葉が呟くのも無理はない。学校の帰りに急に呼び出された。近年他の地方でも拠点を一つにするよりは支部を増やそうという動きが活発で幾つもの支部が設立されているが陰陽庁本部を置く京都に支部を設立する動きはまだない。
「駅前に支部でも作ってくれたら便利なんだけど、そういう話ないの?」
「うーん、聞いた事ないかな、今の所は。お祖父様も無駄な税金使うと上が煩いって」
陰陽庁は国家防衛の為の組織であり現在防衛省の中にある自衛隊と並ぶ国家防衛の為の一部門に属している。公務員と言って差し支えはない。陰陽師が出来た時からの名門も存在していれば、神官に就いている者が転職希望で門を叩く者や陰陽庁の組織が才能を見込んでこの世界に引き入れた者も居る一方、全く力の無い者も多く在籍をしている。殆どは関係者の親族に当たり事務作業や、オペレーター、陰陽師達のサポートとして働いている。現役を退いた者や負傷して仕事が出来なくなった者は裏方に回ったり新人育成の為の講師としての任務に着く事が多い。紅葉と京子は京都の市役所の中へと入ると、受け付けのお姉さんから2階にある部屋へと通される。小さい部屋には机と面談が出来る椅子が4つあり、スーツ姿の眼鏡を掛けた30代半ばの女性が笑顔で挨拶した。
「こんにちわ、紅葉ちゃんと京子ちゃんね。ささ、座って?」
一礼して二人は挨拶を交わすと、椅子に腰かける。
「任務ですよね?呼び出されたって事は」
「ええ、ちょっと今話題になってる牛の刻参りの件で人手を割いちゃって。というか、実は他にも怪しいケースが続々と出ていてね。事故死と断定された方の身近な人が同じようにして死んでいる似たような事例が京都で増えているの。だから呪術が関係しているか調査の為に人を動かしてる分ね?」
申し訳なさそうに女性が言うと、二人は納得した。
「穴埋め要員が私達って事ですか」
女性が頷いた後、山奥にある古い旅館に出没する幽霊の調査任務を言い渡される事となった。
ローカル線を乗り継いで1時間くらいの近場ではあるが都会から離れて田舎の景色が広がっている。駅を降りて山道を登り、舗装された道路とはいえ人の気配も車が通る様子もない。学校の放課後から直行であった為あれから2時間は経過しており現在日も落ちかけている午後6時。
「やばい、お腹減ってきた」
「多分もうすぐ着くから、これ食べて持たせて」
京子が紅葉にチョコを差し出す。有り難く紅葉は受け取った。
「去年小学生だった私たちに回す仕事じゃないと思うんだけど!!」
「確かに、それは思う」
去年までランドセル背負っていた二人に伝統とはいえ仕事の内容が酷ではある。結局それから目的の旅館に着いたのは30分後。山の半ばにある旅館の玄関に入ると一人の女性が出迎えていてくれている。その宿の女将さんではなく、二人がよく知る女性だった。
「よく来たわね、歓迎するわよ。大変だったでしょ」
「由紀さん、こんばんわ。少し休ませて貰っていいですか?」
「ええ、いいわよ。紅葉も良く来てくれたわね」
「好きでこんなとこまで来ませんよ」
玄関に腰かけて、二人とも靴を脱いで足を思いきり伸ばした。そしてゴロンと背中から床に倒れる。30代半ばの浴衣姿の女性は苦笑して笑った。普段は子供に退魔師の基礎を子供に叩き込む講師をしており、二人も去年まで良くお世話になった人物である。旅館でご飯とお風呂を済ませ、由紀さんが仮眠を取る間二人は噂の幽霊が出るか待つ事になった。旅館の方にその話を尋ねると、幽霊が出る様になったのはごく最近らしい。森の中で火の玉が出現して白い装束を着た幽霊が現れる。追いかけた人の話によれば呪いの言葉を吐きながら歩いていって消えたらしい。鞄を開けて巫女服一式を取り出すとそれに着替えて身を引き締める。教科書類は全て教室へと置いてきたので宿題も出来ない。旅館の規模は中くらい。大きくもなく、小さくもない。人が少ないので温泉も貸しきり状態だったのは幸いとも言える。二人は窓から外へと跳躍して一気に降りた。由紀と交代する深夜12時まで、早速森の中へと足を踏み入れた。